アクセプト『Bound to Fail』
今日はAccept『Bound to Fail』について。
アルバム「Metal Heart」収録曲。
この曲は、ドイツのHR/HMバンドAcceptが1985年に発表したパワーメタルです。
バーバリズムに溢れているのに、どこか上品なところが魅力的な曲。
ウド・ダークシュナイダー(Vo)の個性が強すぎて野性味が先行しがちですが、フレージングはまさにメタル黎明期の、いわゆる正統派のそれ。
そのクセの強さと優美さのギャップが、この曲の中枢を担っていると思います。
イントロなんて、もはや壮大な舞台の幕開けのBGMのようです。
この曲の真骨頂は後半のコーラスパート。
まるで壁のような、ぶ厚い声の塊。
音程が低めなので、歓声というより声援を連想させます。
クイーンにみられるような高音域を多用したコーラスも優雅で良いですが、こういう迫力とパワーで圧倒するようなコーラスも男らしくてかっこいい。
しかもコーラスというと、他バンドでは基本的にアクセント程度で使用される事が多いのですが、本作では曲のラスト約2分間がずっとコーラスという、冒険心を感じられる内容。
楽曲の約5分の2が「ア~ア~、ア~アアア~」で埋まるという独創性。笑
それでいてちゃんとメロディアスにはなっているのだから、やはりコーラスワークはアクセプトの専売特許ですよね。
コーラスと言えばBuckcherryの「Gluttony」のコーラスもロックファンからは評判が良いですが、そうした後進HR/HMバンド達にも引けを取らないクールな仕様だと思います。
マノウォーもそうですが、ソリッドなリフに重低音コーラスが混ざる、というのは80年代メタルバンドのエッセンスですよね。
シックな骨太感のあるHR/HMです。
正統派だからこその、格式を感じさせてくれる曲を聴いてみてください。
それでは。
東京事変『OSCA』
今日は東京事変『OSCA』について。
この曲は日本のロックバンド東京事変が2007年にリリースしたポップロックです。
亀田誠治(Ba)のベースがエキサイトする曲。
大抵ロックバンドは、ボーカルかギターが花形と思われがちですが、本作では特にベースが熱を放っています。
イントロから超ダイナミック。
音の使い方自体はストレートなのですが、とにかくよく動き、ポップスの枠組みさえ飛び越えた迫力を演出しています。
亀田誠治も「レコーディングの時、弾き切るのがとても大変だった。」と語るほどハードなプレイ。
後にダウンタウンの浜田雅功の息子かつプロミュージシャン(ベーシスト)のハマ・オカモトから
「当時中学2年の僕でも再現できるかもと思わせるシンプルさでありながらこのイントロを彩っている」
と語られるほど、業界人からもインパクトの強さに定評があるフレーズです。
実は元々、浮雲(Gt)がギターで弾く予定だったパートのよう。
ですが編曲の段階で「亀田さん弾いてみてください」とリクエストされ、弾いたら上手い具合にハマったのでそのままベースでレコーディングする事になったとの事。
L'Arc~en~Cielのtethuyaもそうですが、基本的に縁の下の力持ちであるベースでこれだけ華のあるプレイができる所がかっこいい。
しかもクリックも無しで1発録りで録ったというのだから、彼のプライヤーとしての規格外ぶりを思い知る作品です。
このプレイの良いとこは、これだ派手なプレイをしていても他パートの邪魔をしていないところ。
楽器隊が目立ち過ぎて、主旋律であるボーカルパートを食ってしまうというのはロック界ではよくある事ですが、亀田誠治のベースは音数は多いながらも、他パートと綺麗に調和しています。
サビにおいては音程も高くなるのですが、でしゃばるどころか、まるで椎名林檎(Vo)の裏でコーラスを歌っているかのような整ったグルーヴ感を発揮。
必ずしも静かなプレイをしなくても、他パートの音を引き立たせる事は出来るんだ、という事を示してくれる稀有な曲。
激しくも謙虚なプレイです。
基本の役割を果たしながらも、ビシッと存在感をアピールするベースが映える曲を聴いてみてください。
それでは。
シャム・シェイド『NEVER END』
今日はSIAM SHADE『NEVER END』を聴いた感想を。
この曲は、日本のロックバンドSIAM SHADEが1998年にリリースしたロックチューンです。
邦ロック界においてかなり革新的な曲。
というのも日本のシングル曲としてはおそらく初めて、ロックに5/4拍子(Aメロ)を取り入れた作品なんですよね。
その珍しさ、新しさは当時の新聞で取りざたされたほど。
オーソドックスなポップロックの「1/3の純情な感情」とは少し違った意味で話題になった曲です。
リズムのクールさもさることながら、DAITA(Gt)のソロもかっこいい。
並の洋メタルにも負けない、激しい弾きまくりソロを披露しています。
元BOØWYの氷室京介から「めちゃくちゃ上手い」
と評された彼のテクニックが楽しめる曲です。
このソロですら数あるDAITAの技術の一片に過ぎないというのだから、凄まじい。
ジョー・サトリアーニ、ジョン・ペトルーシ、スティーヴ・ヴァイが出演していた「ロックギタリストの饗宴」“G3”の日本公演に、最初に招待された日本人ギタリストのスキルの一端が拝める作品です。
ただ、だからと言って隅からすみまでテクニック一辺倒なのか?と言うとそうでは無く、サビではメロディアスな旋律に変化します。
変拍子に興味が無いリスナーでもこの『NEVER END』は好き、という人が居るのはこのキャッチーなサビの要素が大きい。
メンバーいわく
「サビがメロディアスだったら何してもいいんでしょ。笑」。
との事。笑
確かにテレビでのアーティストの新曲のCMなんかでも、流れるのは大抵サビなんですよね。
そこが一般ウケするキャッチーなメロディなら売れやすい為、A~Bメロまでがマニアックな構造でも事務所も販売を許す。
日本のメジャーシーンについて一辺の真理を宿しながら、ちょっとだけ風刺がこもった言葉ですよね。
デビュー後徐々にメタルHR/HM系の曲を増やしていった、メジャーバンドとしては尖った一面のある彼らだからこそ言える台詞。
多くのバンドが解散後はそれぞれ活動場所探しに行き詰まるなか、演奏力の高さゆえに、解散後も様々なバンドのレコーディングやイベントに呼ばれるほどの彼らのスキルの一部が堪能できる楽曲です。
美旋律とテクニカルの共存した曲を聴いてみてください。
それでは。
アイアン・メイデン『The Evil That Men Do』
今日はIron Maiden『The Evil That Men Do』について。
アルバム「Seventh Son of a Seventh Son」収録。
この曲はイギリスのHR/HMバンドIron Maidenが1988年に発表した正統派へヴィメタルです。
アルバムの邦題は「第七の予言」。
雄々しくも哀愁がある曲。
メイデン曲全般に言える事ですが、サウンドは太く男らしいらしいのに、どこか切なさがあります。
その強さと脆さのギャップが彼らのテイストになっていると思うのですが、本作はなんとスティーヴ・ハリス(Ba.Vo)、ブルース・ディッキンソン (Vo)、エイドリアン・スミス(Gt.Key.Vo)の共作。
それぞれが生み出したそれぞれのメロディが巧みに組み合わされていて、まるで一種の巨大美術品のような威厳でリスナーを圧倒していきます。
とても勢いが強い曲なのに、サビでは美しいメロディになるメイデン節の曲展開は健在です。
この曲で良いのは、デイヴ・マーレイ(Gt)とエイドリアンのギターメロディ。
そこまで音数が多いわけではないのですが、それが隅々までエモーショナル。
特に素晴らしいのがその2人によるツイン・リード。
基本的にメイデンのギターの音はデイヴが柔らかなクリーン・トーン担当、エイドリアンが鋭く激しいトーン担当といった感じですが、本作ではその異なる音色が二人三脚でメロディを奏でます。
ドライブ感のある曲なのに、どこか高級感があるのはこのギターメロディの要素が大きい。
かと思えばリフでは、ファンから「軍艦リフ」と称されるほど重く突撃力のある刻みで圧力を発揮したりと、メタル曲として隙がない構成。
現在のメイデンは、ギタリスト3人体制という、「ギターオペラ」とでも言うべき圧倒的スケールのプレイを聴かせてくれます。
ただ、このギタリスト2人体制時代のコンパクトな構成も、(それでも充分、壮大ですが)色の違うかっこ良さがあったのではないでしょうか。
荒々しさと瑞々しさの共演のような曲です。
余分な音の無い、研ぎ澄まされたメタル曲を聴いてみてください。
それでは。
ナイトメア『the WORLD』
今日はナイトメア『the WORLD』を聴いた感想を。
この曲は日本のロックバンド、2006年に発表したロックチューンです。
アニメ「DEATH NOTE」のOPテーマとしても有名。
直線的な中にも、細やかなテクニックが散りばめられた曲。
テンポが速いので力押しのロックのように聴こえがちですが、ソロパートでの咲人(Gt)の技巧派なプレイが曲に彩りを添えてくれています。
特にタッピングの連打パートがかっこいい。
他音源で流麗なハンマリングやスラップも披露する技数の多いギタリストですが、本作ではこの洋楽のHR/HM並みのタッピングこそ、ギターパートのハイライト。
高校時代にヤマハ主催の「TEENS’ MUSIC FESTIVAL」で入賞した事もある、彼の基礎技術の高さがいかんなく発揮されています。
一時期、自身のギタープレイや周囲の環境に悩み過ぎて、ナイトメアを脱退するか真剣に悩んだそうですが、それは咲人がそれだけ強く音楽に向き合っている証拠。
彼の素直さ、ストイックさがそのままあらわれたようなプレイです。
楽曲構成的にも、とても贅沢。
出だしのパイプオルガンで冷たい妖しさを演出。
その妖しい音とYOMI(Vo)のパッショネイトな声が入り交じり、美しいデュエットを楽しむ事ができます。
やや激しい発声と、透明感のあるパイプオルガンのサウンドのコンビネーションで、さながらワイルドさと上品さのダブルパンチ。
「東京傷年」でも見られたメロディクスピードメタル+ポップスの雰囲気が味わえるところが良いです。
激しくも、あくまでメロディとサウンドが美しい彼らならではの作品です。
記念すべき彼らの、初めてのオリコンチャートトップ10入りを果たした曲を聴いてみてください。
それでは。
ムック『ママ』
今日はムック『ママ』について。
アルバム「葬ラ謳」収録。
この曲は日本のロックバンド、ムックが2002年に発表したロックチューンです。
アルバム名の読みは「ほむらうた」。
攻撃的なようで儚い曲。
アップテンポに妖しいメロディをのせる、という曲構成はムックの十八番ですが、歌メロがいつになく悲しげ。
作詞・作曲ともに逹瑯(Vo)ですが、本人が影響を受けたバンドとして公言しているバンドBUCK-TICKの耽美性に、ややメロコア感を混ぜたような雰囲気になっています。
逹瑯の、全体的にまるで泣き声のまま歌っているような裏返りかかった歌い方が、楽曲の悲しさを直球で表現してくれています。
特にサビでは慟哭しているような声で、特にその表現が激しい。
サビ直前に入るミヤ(Gt)の奏でる情感的なフレーズが、そのサビの勢いを一層後押し。
元々ムックはこの逹瑯とミヤの2人から始まったバンド。
その始まりのメンバーに相応しい、阿吽の呼吸が完璧に揃ったコンビネーションだと思います。
歌詞の内容もとても悲痛。
「ボクの大好きな優しいママ」
「ここに来てから見当たらない」
「ボクの大好きな優しいママ」
「わずかな記憶だった 形の違うママ」
「あなたがボクを捨てて」
「今日ボクは死にました」
飼い主に捨てられて保健所で殺処分される猫の心境を綴った内容。
逹瑯自身が飼い猫(名前はテト)をとても可愛がっている愛猫家の為か、世間の飼い猫をあっさり捨ててしまう飼い主に物申したくてこういう歌詞を書いたのかもしれません。
捨てた飼い主を直接批判する文章ではなく、飼い猫側の視点に立った詞を書く、逹瑯らしいセンス。
猫の視点にたった詞の音楽作品と言えば他にもBUMP OF CHICKENの『K』がありますが、いずれにしても最後に猫は亡くなる、という共通点があります。
ただ、『K』が猫が飼い主との約束を果たす為に奔走する愛に溢れた内容なのに対し、この『ママ』は愛する飼い主に裏切られた猫が主人公の内容という、ある意味真逆にも近い構成。
社会風刺の要素を帯びてるという意味では夏目漱石の「我輩は猫である」の方に近いのかもしれませんが、その重苦しいメッセージが逹瑯の悲鳴にも似た声にのって、痛いほどリスナーの胸に突き刺さっていきます。
インタビューなどでも明るいテンションで話す逹瑯がこういう歌を歌う事でギャップも感じられますよね。
ビートは刺々しいのに、悲しみと無力感が詰まった曲です。
ロマンチックなメロディに切ないメッセージがのった曲を聴いてみてください。
それでは。
アーチ・エネミー『The Immortal』
今日はArch Enemy『The Immortal』について。
アルバム「Burning Bridges」収録。
この曲は、スウェーデンのHR/HMバンドArch Enemyが1999年に発表したメロディックデスメタルです。
ツインギターによるソロが凄まじい曲。
プレイはマイケル・アモット(Gt)(兄) とクリストファー・アモット(Gt)(弟)の実の兄弟による演奏です。
兄のマイケルは、マイケル・シェンカーにも例えられるほどの音色とメロディ重視の情緒豊かなプレイスタイル。
弟のクリストファーはイングヴェイと比較されるほどの、テクニカルな速弾きのプレイスタイル。
まるで熱い炎とクールな氷のコントラストのような世界観で、聴き手を一聴で惹き付けてくれます。
基本的にバンドにおいてツインギターとは、それぞれ意図的に別の音を弾いて音に厚みを持たせる為のものですが、ここまで違うタイプのギターが同じバンドに2人いるのは珍しい。
兄が王道HR系のエモーショナルなギタリストだとすれば、弟は緻密なネオクラ系スタイルでしょうか。
タイプの違うギタリストの演奏を組み合わせて、それでいて違和感を感じさせない楽曲構成力も含めて、とても見事な完成度。
轟音のような音数のリフも含めて、ギターが活躍するデスメタル。
繊細ですが切れ味も鋭い、上質な刃物のような作品です。
ヨハンの声もキレてます。
ただ荒々しい声を出すのではなく、この絶妙に苦しそうな声に味があります。
後任のボーカル、アンジェラ・ゴソウ(Vo)と比較するとやや目立たない印象を与えがちなシンガーですが、歌唱テクニック面ではそのアンジェラからも敬意を表されるほどのスキルを持っています。
ただ叫ぶのではなく、微妙に声色を使い分けて感情を表現する工夫は一聴の価値あり。
一般にデスメタルというと、テクニック追及のジャンルの音楽と思われがちですが、テクニックをあくまで想いを伝えるツールとして使う様はまさに「アーティスト」。
鮮やかさのある殺気を放つ曲です。
多くのデスメタルファンから「デスメタルを聴くきっかけになった」と語られる曲を聴いてみてください。
それでは。