メガデス『Holy Wars...The Punishment Due』
今日はMegadeth『Holy Wars...The Punishment Due』について。
アルバム「Rust In Peace」収録。
この曲を、アメリカのHR/HMバンドMegadethが1990年に発表したスラッシュメタルです。
とても濃い味のスラッシュメタル。
基本的にはテクニカルで、攻撃的なスラッシュ。
なのですが、約2:16付近でマーティ・フリードマン(Gt) による、まるで日本の三味線音楽のような和のメロディの導入など、実験的で面白い要素が散りばめられた内容になっています。
凶暴な洋メタルのリズムに、古風な日本の旋律が絡む、という構成はもはやシュールです。
現在マーティは日本を拠点に活動している事でも知られていますが、10代の頃には既に日本の演歌をはじめ、伝統的な音楽を好んでよく聴いていた模様。
そうして若い頃にマーティの中の音楽センスに刻み込まれた伝統的な和の感覚が、怒濤のリズムのメタルに、彩りを与えています。
あくまで噂ですが、マーティはソロを実際の三味線でやりたがっていた、というエピソードあるほどのこだわりぶり。笑
日本にも、イギリスから入ってきたへヴィメタルの表現に日本の歌謡曲の文化が混ざり生まれたジャパニーズメタルがありますが、それとはまた違った色をもつ和風メタルではないでしょうか。
しかし凄いのはマーティだけではありません。
デイヴ・ムステイン(Vo.Gt) の、まるでマシーンのような殺人リフ。
イントロなんてほぼ同じ伴奏を何度も繰り返して本当に機械のようなのですが、なぜか耳にこびりつき病みつきになるパターンでこちらに迫ってきます。
その後はデイヴィッド・エレフソン(Ba) と
ニック・メンザ(Ds) の刻むビートに合わせて変化の連続。
長尺のプレイでも聴き手を飽きさせないように趣向を凝らしている粋なリフです。
本作の核は、この異なるセンスを持つ2人のギタリストのギャップですよね。
「自分をクビにしたメタリカを見返したい」といってメガデスを結成しながらも、どこかでメタリカ時代を思わせる尖ったリフを刻むデイヴ。
一方で必ずしもメタルの表現に固執せず、自分のやりたい音楽の為には他ジャンルの表現も積極的に取り入れるマーティ。
北風と太陽、というには少し違いますがギターにスリルを追及するようなデイヴと、艶やかな情感を求めるようなマーティ、その2人が組んで始めて成立した、30年前の曲とは思えない尖鋭的なメタル曲。
上辺だけの真新しさではなく、ずっしりとした中身に魅力がある作品です。
気品のある無慈悲さを感じるHR/HMを聴いてみてください。
それでは。
エアロスミス『Jaded』
今日はAerosmith『Jaded』について。
アルバム「JUST PUSH PLAY」収録。
この曲はアメリカのHR/HMバンドAerosmithが2001年に発表したロックチューンです。
とても素朴なロック。
従来のエアロの曲と比較すると、超ポップより。
なのですがAメロまで穏やかでもサビで一気に力強くなる為、通して聴くとハードロックに聴こえる、という非常に緩急を生かした構造の曲になっています。
こういう曲の始まりはおとなしくても、サビで爆発する、みたいな曲調の作品は他バンドにもあるのですが、本作はメロディがまるで春の日差しのように温かい。
スティーヴン・タイラー(Vo) の叫び声も、激しさの中にもどことなく優しさがこもっている感じがします。
重い音なのに不思議と暗くはない、エアロ節満載な構成です。
さりげに良いのが、Aメロが終わるといきなり演奏が止まって、そこから一気にサビにいく流れ。
基本ロック曲のサビは、A~Bメロからだんだんとビートが強くなっていく「煽り」的な流れから入る事も多いのですが、逆にこうしてそういう前フリなしで突然サビにいく曲もあるんですよね。
始めはポップスと思わせておいて、いきなりハードロックにいく時のインパクトは、初見のリスナーは一撃でハートを捕まれるのではないでしょうか。
また面白いのは、本作がメンバーが50歳を越えてから発表された作品だという事。
一般的にアーティストは、ある年齢を越えると型にハマるというか、そのアーティストなりの1つのパターンの中で作曲を繰り返す印象があります。
だけどエアロのように半世紀生きて、まだ新たな境地に足を踏み入れるバンドマンは、ロック界の中でも貴重。
もちろん軸がブレないというか、デビューから引退まで同じジャンルを貫くバンドのかっこよさもあると思いますが、彼らのように常に冒険して、まだリスナーにまっさらな刺激を与えてくれるバンドも音楽界には絶対必要なんですよね。
長く活動しているからこそ、必要な音と不必要な音を区分けして、こういうコンパクトなのに破壊力を持つ曲を作る事ができる。
ロック界の生きる伝説ならではの作品ではの作品です。
派手なプレイをしなくても圧倒的な瞬発力と深みを持つ、職人芸のようなロックを聴いてみてください。
それでは。
イングヴェイ・マルムスティーン『Never Die』
今日はYngwie Malmsteen『Never Die』について。
アルバム「The Seventh Sign」収録。
この曲はスウェーデンのHR/HMミュージシャン、Yngwie Malmsteenが1994年に発表したネオクラシカルメタルです。
ジャカジャカ鳴りまくるリフがクールな曲。
イングヴェイ作の曲でリフがかっこいい曲は他にもあるのですが、その中でも「メタル感の濃さ」という意味において、この曲は1、2を争う鋭さを持っていると思います。
イングヴェイ作品というと超絶ソロが話題になりがち。
ですが本作をはじめ、実はリフが光る曲も多いんですよね。
サウンドも従来よりゴリゴリしていて、重戦車のような厚みを連想させます。
元来クラシックで使用されるコードをギターで、しかも超速弾きでプレイするいわゆる「ネオクラシカル」の生みの親としてのイメージが強い彼。
しかし作曲において、ジョー・リン・ターナーから「リフの引き出しが多い」と語られた事もあるように、リフメイカーとしての評価ももっと受けて良いギタリストではないでしょうか。
とは言ってもやっぱりイングヴェイの曲。
ソロにもどうしても耳がいきます。笑
いつも通り超速なのもさすがですが、今回はマッツ・オラウソン(key)のキーボードとのバトル。
まるでテープの早送りのようなイングヴェイのギターに、マッツの奏でる高級感のあるメロディが組み合わされ、ミステリアスでスリリングな世界が顕現されています。
その際ギターではスウィープが使用されているのですが、このプレイにはイングヴェイも自信を持っているようで、
「『Never Die』のソロは聴いてくれたでしょ?
長いパッセージでピッキングしてるやつ。
あんなことをしても問題ないほど回復したっていう証拠のプレイさ。」
と語られています。
実はこの曲のレコーディング前、むかし交通事故で負った右手の怪我を完治させる為の手術を行っているんですよね。
壮絶なリハビリの末に元の速さを取り戻した彼のギター。
本作は全盛期と同等かそれ以上のスピードを発揮しています。
その時の心境を表現したかったのか、曲のタイトルは『Never Die』(決して死なない)。
事故直後は神経レベルで痛めて、まともに動かなかった右手で1からギターの練習をしなおし、たった2ヵ月後にはまたステージでプロレベルの演奏を披露して関係者を絶句させた彼。
「『Never Die』っていうのは、結局は僕のテーマなのかもしれない」
本人がそう話すようにイングヴェイのアーティストとして、そして1人の人間としてのエネルギーが詰まった曲です。
そのあまりにも自由奔放な気質ゆえに、人間性には賛否両論あるイングヴェイ。
ですがプライベートでも四六時中ギターを持ち歩き続けるほどの生粋のギター好きの彼の、ギタリストとしての魂そのもののような作品ではないでしょうか。
これまでの従来の美しい作曲から、美しく熱い作曲に舵をきったイングヴェイ曲を聴いてみてください。
それでは。
Janne Da Arc『RED ZONE』
今日はJanne Da Arc『RED ZONE』聴いた感想を。
この曲は、日本のロックバンドJanne Da Arcが1999年にリリースしたプログレッシブ・ロックです。
バラエティ番組「ネプいっ!」のEDテーマとしても知られています。
非常に高度な演奏によるテクニカルロック曲。
ジャンヌと言うと、おそらく世間では「月光花」のイメージが強いと思います。
その為ポップバンドのイメージを持っている人も多いのですが、インディーズ~メジャー初期まではこういうキレキレのメタリックな曲も多かったんですよね。
実際、使用されているテクニックはとても高次元。
イントロから妖しく輝くkiyo(Key)のキーボード。
ソロパートでギュルギュルと速弾きで暴れ狂うyou(Gt)のギター。
その緻密な演奏から「和製ドリーム・シアター」などと呼ばれる事もある彼らですが、この曲を洋ロックファンが聴けば、その通り名の重みの一端が伝わるのではないでしょうか。
そうしたテクニック、演奏面も魅力的ですが、本作の聴きどころは歌メロとのギャップ感。
yasu(Vo)の歌うボーカルメロディが耳に馴染みやすく、複雑なバック演奏と好対照を為しています。
プログレとポップスの融合と言えば日本ではSIAM SHADEも有名。
ただシャムがハードロックの成分が濃い男らしい曲を作る事が多いのに対し、ジャンヌはkiyoのキーボードの為かパワーメタルの要素が強く華麗な印象。
シンフォニックなプログレのリズムに、ポップスのメロディを乗せるというコンセプトは、それこそさっき例に出したドリーム・シアターのようで優美です。
作詞・作曲はyasu。
プログレッシブ的要素が曲に混ざっている部分はどちらかというとアラン・ホールズワースやヌーノ・ベッテンコートからの影響を公言しているyouのセンスに近い気がします。
しかし一方で、この親しみやすいボーカルメロディは、若い頃から歌謡曲やBOØWYの曲を好んで聴いていたyasuの感性が生かされている雰囲気。
似た音楽趣味を持っている人同士で組むバンドの強みもあるでしょうが、ジャンヌのように異なる趣味を持ったメンバー同士だから出せる化学反応感こそ、バンド独特のパワー。
普段から関西ノリで明るいにも関わらず、どこか自分の世界を持っている彼らならではの作品だと思います。
デビュー時のキャッチコピーは「ヴィジュアル系の最終兵器」。
その名に相応しい演奏力と耽美性を持つ曲を聴いてみてください。
それでは。
イン・フレイムス『Embody the Invisible』
今日はIn Frames『Embody the Invisible』を聴いた感想を。
アルバム「Colony」収録。
この曲は、スウェーデンのHR/HMバンドIn Framesが1999年に発表したメロディックデスメタルです。
「Stand Ablaze」と並ぶイン・フレイムスの代表曲。
「Stand Ablaze」が哀愁のある情感的な作風なのに対し、この『Embody the Invisible』は爽快感のある、80年代の硬派なヘヴィーメタルの成分が強い印象です。
ただし、メロディックデスメタルでありながらミドルテンポという点は共通。
イン・フレイムスと言えばデスメタル曲でも「速さ」をあえて抑える表現を多用する事でも有名なバンド。
その玄人好みの作風を往年のメタルファンから愛されてきた彼らですが、その渋味は本作でも健在です。
特に素晴らしいのがイェスパー・ストロムブラード(Gt)、ビョーン・イエロッテ(Gt)によるツインリード。
アイアン・メイデン、ジューダス・プリーストへの敬意を感じるギターメロディ。
テンポがあまり速くない分、隅々までメロディが詰め込まれ、美麗に旋律が動きまくっています。
このボップ色が強いキャッチーメロディをあえてデスメタルに織り込むコンセプトは、まるでこの同時期にメロデス界を席巻していたバンド、チルドレン・オブ・ボドム、アーチ・エネミーにバチバチに勝負を挑んでいるかのようです。笑
ただ、リードギターのメロディが澄んでいる、という点はイン・フレイムスのこれまでの作品と同じなのですが、本作はリフも凄い。
かなりトリッキーに和音を刻んでおり、「メタルは、リフがかっこ良いかどうか」という層にも響く、激熱なリズムでバックを支えています。
そのリフが、一曲の中に自己主張の激しいパートと、またひっそりと後ろを支えるパートの2段構造になっているところもポイントが高い。
「イン・フレイムスはこの辺りからリフがかっこ良くなった」と称えるファンが多いのも、この曲を聞けば解ると思います。
ソロ、リフ、ギターパートのどこを聴いても隙がないメタルです。
メロディを極めたメロデスを聴いてみてください。
それでは。
アンスラックス『Gung-Ho』
今日はANTHRAX『Gung-Ho』について。
アルバム「Spreading the Disease」収録。(邦題:狂気のスラッシュ感染)
この曲は、アメリカのHR/HMバンドANTHRAXが1985年に発表したスラッシュメタルです。
アンスラックス全作品の中でも1、2を争う衝撃度の曲。
チャーリー・ベナンテ (Ds)が楽曲の大半でツーバス踏みっぱなしなのもありますが、曲が実際のテンポよりもかなりスピーディに聴こえます。
というのも本作のレコーディング、メトロノーム不使用。
その為パートごとに若干リズムが変わって、あるパートでは少し遅くなって、逆に盛り上がるパートでは速くなって、を繰り返していきます。
その緩急が聴き手の体感速度を上げているんですね。
そのリズムの緩急に加えて、サビでのコーラスのパワーが加わって、1度聴いただけで忘れらなくなる程の迫力とインパクトが発揮されていきます。
また速いだけじゃなく、ジョーイ・ベラドナ (Vo)の歌メロも、かなり整ったメロディ。
圧力が凄い曲ですが、どこかスッキリして聴こえるのは、この歌メロの要素が強い。
個人的にはこういう勢いの中にもメロディがあるメタルは好きです。
そして本作の真骨頂。
ラストの「悪ノリ」パート。笑
約3分30秒付近から始まるのですが、急に行進曲→祝祭時のBGMのようなメロディが始まり、更に「アアァッ」「ワアァッ」など雄叫びが鳴り響く、謎のノリが繰り広げられます。
途中まで割と王道のスラッシュメタルだったのに、何の前触れもなくいきなり遊び始め、そしてそのまま終わっていく。笑
リスナーを笑わせたかったんだと思いますが、やんちゃバンドで有名なアンスラックスらしい手法でもありますよね。
アンスラックスと言えばメタリカ、メガデス、スレイヤーと並ぶ、いわゆる「スラッシュメタル四天王」の一角。
ただ、こういう天真爛漫なパーティー気質は、他の3バンドにはあまり見られないアンスラックスならではの個性。
基本的にはスリリングに展開するスラッシュメタルに、あえてこういう遊びを入れる冒険心が、この曲が発表後30年以上経過しても未だに根強い人気を保っている要因ではないでしょうか。
身近感のあるHR/HM曲です。
心地よい明るさのあるスラッシュメタルを聴いてみてください。
それでは。
スピッツ『渚』
今日はスピッツ『渚』について。
この曲は日本のロックバンド、スピッツが1996年にリリースしたポップロックです。
﨑山龍男(Ds)のドラムが凄まじい曲。
ファンの間では「ドラム音がリフ」と評される程メロディックなビートで、本作の中枢を成していると言っても過言では無い存在感を発揮しています。
特に良い所が、後半に進むにつれて音数がどんどん増えていくところ。
Aメロではシンバルとバスドラのみ使用したプレイで、静寂感を演出。
しかしBメロに入ると、満を持してスネア音が出現。
全体的に手数が増えていって、グルーヴに厚みが増していきます。
ドラム音でここまでのストーリー性を表現できるのは凄い。
なぜこういう構成にしたかというと、おそらくですがタイトルの『渚』。
『渚』とは「波打ち際」という意味があり、この退いたかと思えば次には押し返してくるようなリズムのビートは、まるで渚の波を連想させます。
そもそも『渚』のタイトルの由来は、歌詞の内容が
「ささやく冗談で いつもつながりを信じていた」
「ねじ曲げた思い出も 捨てられず生きてきた ギリギリ妄想だけで 君と」
など、おそらく
「実際に告白して付き合うまではできなかったけど、きっと両想いだったんだと信じたい」
と希望的観測を抱いている主人公の心境。
要は
「きっと相思相愛だったんだ」
と希望を抱いている気持ちと、
「でもそれは、ただの自分にとって都合の良い思い込みなんだろうな」
とネガティブに思う気持ちが、まるで陸でも海でもない「渚(波打ち際)」のようだと例えて生み出されたものだからなんですよね。(あくまで多分ですが)
そんな主人公のジレンマを、ドラムのリズムの濃淡でここまで表現できる﨑山龍男のドラミングには、一種のボーカルメロディのような歌心さえ感じます。
ふつう、一般のドラマーならこういうポップス系のドラムはもっとおとなしいリズムを刻むもの。
ただし﨑山龍男は、学生時代は、ヘヴィーメタルバンドのメンバー。
また、影響を受けたドラマーにLOUDNESSの樋口宗孝を挙げたりと、実はルーツにヘヴィーメタルを持つドラマー。
きっとそのキャリアがこの多彩な音数のドラムテクニックを作りあげたのだと思いますが、草野正宗(Vo)の透明感のある歌声と相まって、複数のメロディが折り重なって、一曲の中にいくつものメロディが溶け合ったような重厚な構造の曲になっていると思います。
スピッツメンバー全員がメインメロディ担当と言うべきスケールが本作の持ち味です。
軽やかなヘヴィさを持つ曲を聴いてみてください。
それでは。