ハロウィン『March of Time』
今日はHelloween『March of Time』について。
アルバム「Keeper Of The Seven Keys Part 2(邦題:守護神伝 -第二章-)」収録。
この曲は、ドイツのパワーメタルバンドHelloweenが1988年に発表したメロディックスピードメタルバンドです。
変貌の連続が鮮やかな曲。
クラシック界の巨匠リヒャルト・ワーグナーの楽曲を元に生み出した作品との事ですが、場面ごとに曲風を変化させながら前進していく様は、まさにHelloween流メタルオペラです。
個人的にこういう転調を繰り返すタイプのスピードメタルは大好き。
この作品の素晴らしいところは、「その上で」場面のひとつひとつが濃密なところ。
舞台劇の幕開けのように荘厳なイントロ、王道メタルのように硬派なAメロ、70年代ロックバラードのような情感のあるBメロ。
劇的な展開だからとそれにかまけず、部分部分を丁寧に作ってくれるところは流石に大御所。
そしてクライマックスの、格調高すぎるサビ。
マイケル・キスク(Vo)の艶やかなハイトーンに、ラプソディ・オブ・ファイア並に重厚なクワイアが絡んでいきます。
ラプソディと差異があるとすれば、バックのサウンドにオーソドックスなメタルの要素が強いところ。
インゴ・シュヴィヒテンバーグ(Ds)のスネア音が硬質でかっこいいです。
現在のパワーメタル系バンドはどんどんオーケストレーションの成分が色濃くなっている印象ですが、これぐらいバンド楽器の音を強調してくれていた方が、伝統派パワーメタルバンド的に魅力的ではないでしょうか。
また、楽曲のインパクトが強い為にあまり取り沙汰されませんが、カイ・ハンセン(Gt)作の詞も良いんですよね。
「みんなもっと長く生きたいとか、永遠に生きたいとか願ったり、もしかしたらあの世があるかもしれないとか」
「たとえどんなにそんな事を思っても、一度の人生ってのは短いものだ」
「あぁ、けれど良い人生を送る希望の全てを捨てちゃいけないよ」
「現状を悪くするのに限られた時間を無駄にするのは惜しい」
「どうか、どうか、どの時代の人々も最高の人生を生きられるように」
「何を変えるのが最善なんだろう」
どんな事を願っても人生の時間は限られていて、いつか必ず終わる。けれど「だから空しい」ととるか「だからこそ幸せにならなきゃ」と取るかは結局自分次第、というメッセージ。
19世紀に本格始動した実存主義を連想させるような、少し切なく力強い歌詞が熱いです。
音楽的にも詞的にも、カイの偉観な世界観とキスクの気高く情感豊かな声は本当に相性が良いと思います。
2人とも一時期Helloweenを脱退し、昨年から期間限定で再加入し2018年にはアルバムもリリースしてファンを歓喜させましたが、個人的にはもう少し長く一緒に活動して欲しい、と思ったり。
HR/HM史に名を刻む最強タッグです。
Helloweenには「Eagle Fly Free」以外にも偉大な作品がある、という事を知らしめてくれる楽曲を聴いてみてください。
それでは。
マライア・キャリー『All I Want for Christmas Is You』
今日はMariah Carey『All I Want for Christmas Is You(邦題:恋人たちのクリスマス)について。』
この曲は、アメリカのシンガー・ソングライターMariah Careyが1994年にリリースしたポップロックです。
ノリノリさの中にある無垢さが綺麗な曲。
かなりアップテンポなリズムの曲ですが、構造自体
「ポップス、ソウル、コンテンポラリー・R&B、ゴスペル、ダンス・ポップ、リズミック・アダルト・コンテンポラリーの影響を受けた構成」
と評される程に重厚で、何よりマライア自身が歌う瑞瑞しい歌メロが一聴しただけでリスナーの心を鷲づかみにしてくれます。
それまで世界ではクリスマスソングと言えば、例えば日本の山下達郎の「クリスマス・イブ」のようにゆったりまったりした曲調、という流れがありました。
その中であえてこういう軽快なリズムの楽曲を発表し、しかもその上で大成功まで果たした本作は、商業的にも、慣習を覆したという意味で音楽業界の歴史的にも偉大な作品。
本作をカバーしたアーティスト達の一覧を見ても
日本では
世界では
ジャスティン・ビーバー
アリアナ・グランデ
エリックマーティン
デイヴ・バーンズ
ビッグ・タイム・ラッシュ& ミランダ・コスグローヴ
レディ・アンテベラム
ジェシカ・マーボイ
ニューズボーイズ
ノタ
ボウリング・フォー・スープ
マイケル・ブーブレ
アンバー・ライリー
etc.…
など、国籍も世代もバラバラな部分を見ても本作の世界的影響力が伝わってくるようです。
個人的にこの曲で好きなところは、騒がし過ぎず静か過ぎないところ。
この手のパーティーソング的な歌は、ともすれば派手過ぎて少しうるさかったり、勢い任せ過ぎる場合もありますが、マライアのこの曲は明るいながらも心地良いテンションで歌い上げられていて、好きな人を純粋に想う少女のような無邪気さに満ち溢れています。
歌詞も
「クリスマスツリーの下のプレゼントなんてどうでもいい」
「あなたが想像もできないほど、あなたをただ私のものにしたいの」
「私の願いを叶えて!」
「私がクリスマスに欲しいのはあなただけ」
と直向きな想いが表現されていて、聴いているととても明朗な気分になれます。
日本アーティストの代表的クリスマスソングが前述の山下達郎「クリスマス・イブ」やB'zの「いつかのメリークリスマス」のような切ない世界観なのに対し、こういう快活なクリスマスソングを作れるのはアメリカのアーティストならではのセンスなのかもしれませんね。
リリース後20年以上ものあいだ世界のクリスマスに、冬の寒さを無視した温かさを与えくれている歌を聴いてみてください。
それでは。
Dir en grey『Dozing Green(Before Construction Ver.)』
今日はDir en grey『Dozing Green(Before Construction Ver.)』を聴いた感想を。
アルバム「UROBOROS」完全生産限定盤の「Disc 2. -UNPLUGGED DISC-」収録。
この曲は、日本のロックバンドDir en greyが2008年に発表したロックバラードです。
物事の裏表を考えさせられるような曲。
「誰もが見て見ぬふりをして 幸福垂れ流して」
「手を延ばし その先に求めた 安らぎとは犠牲の上」
「ただ眼を背けていたいだけだろ?」
「ただ加害者に笑いかけてろ」
「一見、平和に見える光景でも、その底その直前まではとても悲しいものが在るかもしれない」という思想が展開されています。
元々タイトルの『Dozing Green』(緑にまどろむ)の意味自体、作詞者の京がインタビューで
「たとえば綺麗な緑色の草原に見えても、土の下には何が埋まってるかわからないじゃないですか。表面だけしか見ずにいたら、気付かないことなんてたくさんある。」
「そう思ったときに、なんか緑のなかに堕ちていくような感覚をおぼえたんですよね。」
と語っているように、「一面が美しいからと、その全てを美しいと考えるのは早い」というメッセージが込められたもののようですね。
こういう「表層だけ見て全てを把握する事はできない」のようなことを語る人を持つ人は、それ自体は京の他にも居ますが、不思議と京が語ると読み手の胸にズシッと響くものがあります。
それはきっと「誰もが幸福を垂れ流して」や「加害者に笑いかけてろ」のように、ヘヴィでありながらも他のアーティストが使わない、独特な言葉選びのセンスにあるのかもしれません。
特に本作はシングルVerの『Dozing Green』のアレンジ前のせいか、比喩がそれほど遠回しではなくやや直接的な表現を用いている為、他のディルの詞より少しだけ内容が解りやすい印象。
複雑な比喩を読みとく手間をかけずに京の詞を楽しみたい人にオススメです。(それでも世間一般のアーティストの歌詞よりは難解な方だと思いますが)
曲の方は退廃的ながら繊細。
前半は低音で歌いながら中盤以降から一気にキーが跳ね上がる、というディル得意の展開になっています。
その展開自体はディルの楽曲の中では珍しくはないのですが、「VINUSHKA」のように、疾走+デスボイスのパートや大サビで更にキーが上がる部分など、ただのミディアムバラードでは終わらないエキセントリックさを感じられます。
ストレートなメロディ部分は一般の人にも、深みのある詞は古参のファンにも響く楽曲です。
受け入れやすさとコアさ、歌詞のテーマのように「一面だけ受け止めるだけでは解らない」音楽を聴いてみてください。
それでは。
スコーピオンズ『Pictured Life』
今日はScorpions『Pictured Life』について。
アルバム「Virgin Killer(邦題:狂熱の蠍団)」収録。
この曲はのHR/HMバンドScorpionsが1976年に発表した正統派ヘヴィメタルです。
クラウス・マイネ(Vo)のボーカルプレイが鮮やかな曲。
ガラガラした正統派HR/HMらしい発声なのですが絶妙に倍音が効いていて、荒っぽくも品のある歌声です。
特に胸に響くのはハイトーン部分。
瞬間的にグンッと声を張り上げるパートは、文字通り「泣き」の情緒があって、シンプルにまとめられた楽曲の中にドラマ性を与えてくれています。
声質的にもメロディ的にもボーカルに魅力がある曲です。
ただし、その声が引き立つのもやはりバックの演奏陣の活躍があってこそ。
ルドルフ・シェンカー(Gt)の歯切れの良すぎるリズムギターは、本作に重厚感を付与しています。
そしてクラウスのボーカルに張り合うほどメロディアスなのが、ウリ・ジョン・ロート(Gt)の単音パート。
トリル下降のフレーズの美しさはもはや神秘的。
ネオクラシカル的、というとイングヴェイ・マルムスティーンに通じるところがありますが、本作の旋律は少し哀愁を感じます。
かなり日本人のツボを刺激するメロディセンスではないでしょうか。
現代メタルのように解りやすい煌びやかさや派手さは無いのですが、あのUFOやJudas Priestと同時期にデビューしたバンドだけあって、純朴さの中を手探りしていくと宝物のような瑞瑞しいメロディが見つける事ができる、「渋さ」に重点を置いた作品です。
粋なメタルを聴いてみてください。
それでは。
MISIA『逢いたくていま』
今日はMISIA『逢いたくていま』について。
この曲は、日本の女性歌手MISIAが2009年にリリースしたポップバラードです。
大沢たかお、中谷美紀、綾瀬はるか、内野聖陽が出演した事でも知られるドラマ「JIN-仁-」の主題歌としても有名。
MISIAの感情表現力が際立つ曲。
歌詞はMISIA自身が、第二次世界対戦の際に特攻隊員が書いた「戦争に行く前に家族や恋人に宛てた手紙」を読んで着想を得た内容ですが、まるで実際の戦時中の人に成り代わったような、リアルな情感が声に込められています。
「初めて出会った日のこと 覚えてますか」
「過ぎ行く日の思い出を 忘れずにいて」
のパートの歌唱なんて、まるで本当に今、目の前にいる人に向かって呟いているような臨場感。
そしてそのウィスパーボイスのパートもさることながら、それと違う味わいがあるのがサビでの歌声。
「今 逢いたい あなたに 知って欲しいこと いっぱいある」
「ねえ 逢いたい 逢いたい どうしようもなくて 全て夢と願った」
Aメロ部分では近くにいる人に囁くような歌い方だったのが一変、手が届かないほど遠くにいる人に祈るような歌い方に様変わりします。
もちろん、Aメロとサビで歌い方が違うのは他のJ-POPでも普通の事なのですが、MISIAの場合凄いのはその濃淡。
一曲の中に違う曲が2つあるようなはっきりとした声の使い分けです。
作曲者が「陽のあたる場所」を手掛けた佐々木潤の為、メロディの熱量は申し分なく、おそらく誰が歌っても一定の魅力は保たれます。
ですが本作のように国内最高ランクの実力派シンガーであるMISIAが歌う事で、メロディ重視の作品は最大限良さが発揮されるんですよね。
ポップスのバラードにおける、「表現力」それを支える「歌唱力」の重要さを再認識させてくれる楽曲ではないでしょうか。
技術と情。スキルと愛の両方で成り立つ名曲を聴いてみてください。
それでは。
VALSHE『Butterfly Core』
今日はVALSHE『Butterfly Core』を聴いた感想を。
この曲は、日本の女性歌手VALSHEが2013年にリリースしたロックチューンです。
高山みなみ、山崎和佳奈、林原めぐみが声優として出演している事でも知られるアニメ「名探偵コナン」のOPテーマだった事でも有名。
本作の聴きどころは、なんと言ってもロックな曲調とVALSHE自身の声の「相性」。
うっすらパワーメタルの成分が混ざったきらびやかな演奏と、VALSHEの女声と男声の間のような艶やかな歌声がなめらかに融合しています。
こういう「ボーイッシュな中性的女性ボーカル」というコンセプトの歌手の元祖に、日本では「サヨナラ」のGAOがいますが、このVALSHEはさしずめ「ロック成分の強いGAO」でしょうか。
また、ボーイッシュな声質でも女性ならではのナチュラルなハイトーンも連発されていて、激しさのなかにもガラスのような透明感が混ざるクリアなロックチューンの曲だと思います。
楽曲自体もスリリングで、かなりの本格派。
シンセによるストリングスを多用した曲はとにかくド派手です。
その激しいストリングスとノリの良いリズムの絡みは、さながらシンフォニック・デジロック。
作曲者が「magnet」で有名なminatoですが、元々アマチュア時代に初音ミクと巡音ルカを用いて大活躍していたクリエイターの為、こういうサイバーロック的な表現は得意中の得意。
(ちなみにVALSHE本人も元々はニコニコ動画出身の歌手)
その攻撃的ながらも品のある曲調は、クリアながらもエネルギッシュなVALSHEの声とは最高の適合性を発揮しています。
2人の、繊細でアグレッシブな世界観を持つアーティストの強力な親和力から生み出された曲ではないでしょうか。
優美なかっこよさを持つ楽曲を聴いてみてください。
それでは。
アクセプト『Balls to the Wall』
今日はAccept『Balls to the Wall』について。
アルバム「Balls to the Wall 」収録。
この曲は、ドイツのHR/HMバンドAcceptが1983年に発表したパワーメタルです。
「VH1クラシック」の英語版による2012年の企画「America's Hard 100」(140万の投票に基づくハードロック/ヘヴィメタルの名曲のランキング)において5位にランク・インした、いわゆる玄人好みのHR/HM。
豪快なのに、魔性の佇まいを放つ曲。
楽曲の特徴としては、その一律感。
特にテンポが速いわけでもなく、かといって劇的な変化があるわけでもないのですが、その格調高いまでの毅然と、同じようなメロディを繰り返して進んでいく様は個性的な中毒性を感じさせてくれます。
その「繰り返し感」の為か、ファン間では「軍歌メタル」、「行進曲メタル」などと表現される事も。
こうして似た展開を繰り返す曲というのは、世間では一見すると「作るのが簡単な曲」、と誤解されがち。
ですが、そういう一歩間違えると単なる冗長な曲になりがちな作曲法で聴き手の心に感動を与える事ができているのはサウンドやメロディ、間の取り方など、絶妙なバランス感覚があっての事なんですよね。
「ドラマティックな展開の曲」とは違う意味で、作るのが難しい音楽を事も無げに生み出すのは、流石はメタル創世期のバンド。
あの「Eduardo Rivadavia」はオールミュージックにおいて5点満点中4.5点を付け、本作を
「歌詞はヒステリックでナンセンスとはいえ、その後広く知られていく、モダンでゆっくりと行進するようなメタル・アンセムの典型を示した、拳を掲げずにいられない名曲」
と評した事もありますが、その評価も納得のクオリティの楽曲だと思います。
他にも、さりげに荒々しいサウンドの合間に聴こえるピッキングハーモニクス連打など、デリケートな工夫もあり「飽きさせない」事に主軸を置いたような作品。
個人的には時間がある時に、何度か聴き返して楽しむのがオススメな曲です。
それでは。