ヴィドール『人魚』
今日はヴィドール『人魚』を聴いた感想を。
アルバム「ロマネスクゴシック」収録。
この曲は日本のロックバンド、ヴィドールが2004年に発表したロックチューンです。
メロウ+疾走系ナンバー。
アップテンポのビートにのる日本的な歌メロを絡ませる構成は、15年前の曲ですが、「現代的V系ソング」の型を綺麗になぞっています。
前述の通りテンポは速いのですが、その割にはボーカルメロディはややゆったりで、声を伸ばすパートも多くジュイ(Vo)特有の独特なビブラートが強調されているところが特徴的。
本作で特に良いと思うのはリズム隊。
手数多めなテロ(Ds.Pi)のドラミングもさることながら、ある種仕事人的なラメ(Ba)のベースプレイがかっこいいです。
音数もある程度多いですが、一般のJ-Rock曲と比較すると音色がかなり太くて、ドシッとした存在感があるんですよね。
特に好きなのは自己主張が強くパワーのあるプレイなのに、それでいてちゃんと「リズムを支えている」というところ。
目立つタイプのベースプレイヤーの中には、たまに速弾きを多様し過ぎたり、やたら高音域ばかり強調し過ぎて、かえって作品内でのグルーヴを損なうような演奏をする人もいます。
しかしラメのベースは、アクティブながらもしっかり他パートとの「折り合い」を重視しているところが、ストイックというか男前なんですよね。
例えば邦ロックのベースヒーローのLuna SeaのJ。
Jのベースプレイが特に冴え渡っている事で有名な作品に「ROSIER」がありますが、この「人魚」でのラメのベースも基本のルートを大きく外れていない、「パワフルなんだけど、あくまでグルーヴを最優先に」な部分が「ROSIER」に通じるところがあると思います。
ラメがJの影響を受けているのかは知りませんが、V系創世記のバンドのかっこいい部分を、スマートに熱く受け継いでいるのが本作の味。
親しみやすいメロディなのに裏にしっかりキッチリとした厚みがある、密度の濃い作品ではないでしょうか。
軽やかさの中に隠された、大人びた重さを楽しんでみてください。
それでは。
ガンマ・レイ『Man On A Mission』
Gamma Ray『Man On A Mission』
アルバム「Land of the Free」収録。
この曲は、ドイツのヘヴィメタルバンドGamma Rayが1995年に発表したパワーメタルです。
ガンマ・レイ曲の中で、最もパワーメタルらしい曲。
激速の中にある高級感の溢れるクラシカルパートは「ザ・ジャーマンメタル」の名に相応しい威厳をほこります。
前述の通りかなりのスピーディーな作品ですが、うるさくはありません。
むしろ中間部分に配置されたリズムダウン+聖歌隊のような合唱パートなどの導入の効果で、圧力よりは情感の方が強調されているように感じます。
こういうロック+濃いめのオペラな構成は、映画の効果で少し前に日本でも話題になった、クイーンの 「ボヘミアン・ラプソディ」を連想。
歌劇のような曲展開もさることながら、個人的に好きなのはカイ・ハンセン(Vo)のボーカルプレイ。
高音でハスキーになるところ、途中の静寂パートでのウィスパーボイスなど、本当に色とりどりの声色の使い分けを楽しむ事ができます。
極めつけはサビでのベルカント発声。
一般にメタル曲のサビでのボーカルは声域の限界近くまで声を張り上げるイメージですが、あえてなのか本作のサビはしなやかな中音域主体。
なんというか、解りやすく「カイ・ハンセンの歌声」っぽさが前面に出ていて渋みがあるんですよね。
サビではあえて叫ばず、伸びやかに歌う展開は後のアングラの「Nova Era」を彷彿とさせます。
多くのガンマ・レイファンから「Somewhere Out In Space」と並ぶガンマ・レイの代表曲と評される作品ですが、それに相応しい超ハイクオリティ+オリジナリティを感じさせてくれる楽曲です。
一見オーソドックスなジャーマンメタルなようでガンマ・レイらしさ、そしてカイ・ハンセンらしさがつまった曲を聴いてみてください。
それでは。
B'z『ミエナイチカラ 〜INVISIBLE ONE〜』
今日はB'z『ミエナイチカラ 〜INVISIBLE ONE〜』について。
この曲は、日本のロックユニットB'zが1996年にリリースしたロックバラードです。
置鮎龍太郎、藤田淑子、笠原留美が声優として出演した事でも知られるアニメ「地獄先生ぬ~べ~」のEDテーマだった事でも有名。
平穏ながらどこか厚みのある曲。
LOVE PHANTOMのシングルリリースの後に発表された作品ですが、作曲者の松本孝弘(Gt)いわく
「派手なイメージが付いた「LOVE PHANTOM」の次のシングルということは意識して製作に入った」。
確かに起承転結の波が激しい「LOVE PHANTOM」と比較するとやや中性的で、どちらというとむしろ「Brotherhood」のような純朴系の魅力をはなっているように感じます。
個人的にこの曲の要は青山純(Ds)のドラム。
あの山下達郎、MISIAのライブサポートも勤めた一流のプレイヤーなのですが、良い意味でバラード曲らしくない、骨太でパワフルな音で演奏しているんですよね。
本作が「ロックバラード感」が強いのは、テクニカルな松本孝弘(Gt)のギターソロも理由の1つでしょうが、彼の奏でるぶ暑くて情熱的なサウンドも重大な要因の1つだと思います。
元々作品自体、
「ミエナイチカラが 僕を今動かしている」
「 その気になればいいよ 未来はそんなには暗くない」
と、「基本的に人が心配してるほど、実際の未来は嫌な事ばかり起こらない」という前向きな世界観の楽曲ですが、まるで青山純の発する音の1発1発がその強く爽快な感情を表しているかのようです。
B'z楽曲でありながら稲葉、松本だけじゃなくバックの演奏にも味がある曲ではないでしょうか。
音色もさることながら、展開的にもさすがのB'zクオリティ。
イントロの時点では松本孝弘と明石昌夫(Ba)の弦楽器隊の高速プレイから始まり、ややハードロックテイストが漂うのですが、その後の稲葉浩志(Vo)のボーカルが入るAメロ部分は緩やかに。
そしてサビに入ると突如転調に入り、リスナーに浮遊感を感じさせます。
稲葉の歌声もかなりの高音なのに、あまり張り叫ぶ感じにもならず、むしろしっとりとして温か。
このコンパクトな演奏時間によくこれだけ沢山の要素を、違和感なく詰め込めるなぁと思います。
この平和的な歌声と重量感のあるバック演奏の化学反応こそ本作の真骨頂。
ロックテイストなのに「癒し」に溢れる曲です。
優しいのに火の玉のようなパワーを感じさせるバラードを聴いてみてください。
それでは。
MY FIRST STORY『不可逆リプレイス』
今日はMY FIRST STORY『不可逆リプレイス』を聴いた感想を。
この曲は、日本のロックバンドMY FIRST STORYが2014年にリリースしたオルタナティブ・ロックです。
宮野真守、 梶裕貴、水樹奈々が声優として出演している事でも話題になったアニメ「信長協奏曲」の主題歌としても有名。
大嵐のように、様々な展開で攻めこんでくる曲。
ドラマ性という尺度において、MY FIRST STORY作品の中で随一の多様さを持っています。
イントロの時点で非常にユニークで、ロック曲には珍しい3部構成。
大抵は1~2部で程々に終わらせて、すぐに歌に入る、という流れが一般的な流れ。
ですが本作は、出だしの段階でじっくり時間をかけて聴き手を引き込んでいきます。
入りの一部はミステリアス系。
ストリングスを主体とした、ひんやりとした神秘的な佇まい。
洋楽のパワーメタル曲のイントロを連想させます。
そして次の2部ではバンド演奏が開始。
リズム隊が奏でるエネルギッシュなビートに、ハーモニクス奏法を主体としたギターがのる、という贅沢な構造です。
この辺りから加速感を発揮。
更に3部ではギターソロパート。
ハードロック的なソロなのですが、少し影があるメロディ。
まるで、これから始まる歌の本質の前フリをしてくれているかのようです。
これだけ沢山の要素を詰め込みまくって、まだイントロが終わっただけ、というところが面白いですよね。
ここからのHiro(Vo)の歌が始まりますが、それがとても味のある中性ボイス。
はじめて聴いた時、一瞬男なのか女なのかわからなかったほど。笑
透き通りながらも歪みのかかったヘッドボイスで、トータルの声域は3オクターブにまで達する勢い。
この曲がロックでありながらも、どこかメタルチックな香りを漂わせるのはHiroの要素も大きい気がします。
かかったリバーブが声の存在感を更に強めているところが特徴的。
彼の声は音域や歌唱法も魅力的ですが、大胆な感情表現も凄い。
作品自体も押して引いて、引いてはまた押しを繰り返す抑揚の強いものですが、それに合わせて強弱を変え、エキサイティングに声の色合いまで変化させる彼の表現力も本作の最高の聴きどころの1つです。
元々彼自身、実は父親はあの森進一、母親は森昌子。
しかも2人いる兄のうち、ひとりは元NEWS・現ONE OK ROCKのTaka、という超がつく音楽サラブレッドなんですよね。
歌手の両親と兄に囲まれて、音楽的感性が養われたのかHiro自身の生来的なセンスなのかは解りませんが、この『不可逆リプレイス』の激情的の感情剥き出しな作風にこの上なくフィットした歌声ではないでしょうか。
「絶対的「僕」の存在は 形を変え今響き渡る」
独特な言葉選びで難解な歌詞と、ハッキリして解りやすい歌唱表現のコントラストも本作の美点の1つ。
野性的なドライブ感と理知的な工夫の両方が楽しめる作品だと思います。
めちゃくちゃに攻撃的なのに、ガラス細工のように微細に磨きぬかれた楽曲を聴いてみてください。
それでは。
アヴェンジド・セブンフォールド『Beast and the Harlot』
今日はAvenged Sevenfold『Beast and the Harlot』 について。
アルバム「City of Evil」収録。
この曲は、アメリカのHR/HMバンドAvenged Sevenfoldが2005年に発表したメタルコアです。
Avenged Sevenfold名物の「多ジャンル詰め込み」を堪能できる曲。
序盤はザから・レヴ(Ds)の、工場の作業音のようなツーバスや、「ギャルルルッ」としたリフなどを主体としたスラッシュメタル系のリズムで聴き手をぐんぐん煽っていきます。
なのですが、そこにのるM.シャドウズ(Vo)の歌声は少し毛色の違う、前のめりなアメリカンハードロックタイプ。
バック演奏が殺気だった圧力を放っているのに対し、まるでステップを踏むような陽気さ。
一種の「緩和材」のようです。
この時点でAvenged Sevenfoldっぽさの片鱗を覗かせていますよね。
そしてここからが名物。
M.シャドウズの歌う、完全に歌で聴かせる曲調に様変わり。
激しいA~Bメロから一転、サビでは途端に美しくなる、という展開自体は元ドリーム・シアターのマイク・ポートノイが参加した事でも話題になった「Nightmare」にも通じるところがあります。
ただ違いは、「Nightmare」のメロディは叙情的で哀愁があるのに対し、本作のソレは雨上がりの陽光のような優しさのような空気があるところ。
メタルコアの上に、タイトルの和訳が「獣と売春婦」という作品のメロディに「優しさ」という表現も変ですが、なんというかその言葉が似合うメロディなんですよね。笑
M.シャドウズ(Vo)の、まるで祈るような発声の歌声が、メロディの情感を思い切り高めてくれています。
元々彼ら自体インタビューで、「影響を受けたバンドは?」の質問にアイアン・メイデン、メタリカ、ガンズ・アンド・ローゼズなど多様なバンド名を上げる、多趣味なメンバーで構成されているバンド。
言われて見るとスラッシーな所はメタリカ、ロックンロールな歌メロはガンズ・アンド・ローゼズ、そして激しいAメロから叙情的なサビという流れはアイアン・メイデンの要素を感じさせます。
一般に作曲家の「個性」というものは、普段プライベートで聴いている複数の他アーティストの作った曲の、好きな要素だけを部分的に切り取って、それらを繋ぎ合わせて1つの曲を作る、というその「自分なりの組み合わせ方」から生まれるもの、というのが通説。
ですがここまで「これでもか」というほど組み合わせた感が前面に出てる作品も珍しいと思います。
Avenged Sevenfold自身の少年のような「あれも、これも」という好奇心が生み出した名曲ではないでしょうか。
素材の豊富さと、その中にあるホスピタリィな歌メロの共演を楽しんでください。
それでは。
アヴリル・ラヴィーン『Complicated』
今日はAvril Lavigne『Complicated』について。
この曲は、カナダ出身のシンガー・ソングライター
Avril Lavigneが2002年にリリースしたパワー・ポップです。
2002年の「最も売れたカナダの曲」に選ばれ、Contemporary Hit Radioのチャートで11週にわたり1位を独占した事でも話題になりました。
苛烈ながら優しい歌詞が印象的な曲。
アヴリル・ラヴィーンの記念すべきメジャーデビューシングル曲で、その驚異的な売り上げから彼女の知名度を爆発的に広めた作品ですが、そのリアルな歌詞でも話題になりました。
「あなたがまるで 他の誰かみたいに振る舞ってるのはイライラする」
「 人生なんてこんなものだよ 転んで、はいまわって、傷ついて、
得たものを手に取って そして飾らなくなっていくの」
「約束したでしょ もうごまかさないって」
自分と過ごす時間以外は、人目を気にして、それに合わせた振る舞いばかりする彼氏を叱りつけるような歌詞。
元々アヴリルが、昔付き合っていた恋人に向けて書かれた詞だそうですが、アヴリルだけじゃなく、まるで世間一般の女性の思っている事を代弁したような内容ですよね。
たとえば嫉妬の感情にしても、「女は自分より外見が美しい女を妬み、男は自分より出世が早い男を妬む」などと言われるように、男性は大抵「世間体」を自分の人生の重要な部分に置きがち。
男性にそういう部分があるのは、一説には人類がまだ猿の時代から、オスは群れのなかでの自分の序列を気にして戦う習性があったので、その時の名残、という仮説はありますが、とにかく見栄を張りたくなりやすい生き物なのかもしれません。笑
ただそれは男にとっては重大でも、女から見れば些細なモノ。
きっと女性側からしたら、自分の彼氏には人目を怖れて違う人間を演じ続けられるよりは、おそらく自然体で堂々としていてほしいんですよね。
愛した人が、世間を気にして変に自分を飾るよりは、そのままで自分らしくいてほしい。
ひたすら相手の好きなところを囁くラブソングとは少し違う、相手に不満を漏らしながらも同時に期待も寄せている。
アヴリル式の、ラブソング的メッセージソング、という感じでしょうか。
アメとムチが絶妙に効いた歌詞だと思います。
楽曲的にも秀逸。
イントロ~Aメロは少し物憂げなメロディ。
素の自分に自信が無い恋人への、空しさを表しているかのようです。
しかしBメロからはわずかに力強く。
そしてサビでは、まるではっちゃけるように演奏とアヴリルの声にパワーがこもります。
恋人に「これからは少しだけ自分に自信を持って」と背中を叩くような音圧。
アヴリル自身の歌声にも、なにか切実感というか懸命になにかを訴えかけよう、という痛切さがあり、それだけ強く相手の事を想っているのだという事が伝わってきます。
強いようで脆い、と見せかけてやはりとても強い。
セリーヌ・ディオンやマライア・キャリーのような歌姫とはタイプが違う、ロック歌姫なアヴリルに相応しい作品ではないでしょうか。
憂いと激励のコントラストが効いた曲を聴いてみてください。
それでは。
ALTIMA『I'll believe』
今日はALTIMA『I'll believe』を聴いた感想を。
この曲は、日本の音楽ユニットALTIMAが2011年にリリースしたロックチューンです。
釘宮理恵、江原正士、日野聡が声優として出演している事でも知られているアニメ「灼眼のシャナIII-FINAL-」のEDテーマだった事でも有名。
非常に前のめりな曲。
キャッチーなのですが「m.o.v.e」のmotsuのラップパートの導入など、かなり攻撃的な仕様になっています。
出だしこそしっとりとしていますが、そこから急転。
クラブ系の、いわゆるトランスミュージックのような曲風に。
元々作曲者の八木沼悟志が「洋楽風のノリに仕上げたかった」というテーマで作っただけあって、まるでユーロビートにも通じるグイグイ感で聴き手に迫り、際限の無い高揚感を与えてくれます。
巧みなのは前述のラップパートのタイミング。
歌メロ自体に導入すると言うよりは、歌と歌の合間に組み込まれていて、あくまで歌メロを彩る「良き繋ぎ」という印象。
超ハイテンションなのに、やっている事はあくまで縁の下の力持ち、という所が職人的でかっこいいです。
そして何より、個人的に1番好きなのは、急に静かになる「人間(ひと)は誰も忘れていく 痛めた傷跡も」のパート。
さっきまでは、膨大な音数だったバック演奏が、急に最小限のリズム音だけになり、黒崎真音(Vo)の歌声が一気に際立つ場面になっています。
気持ち若干キーも下がり、歌詞の達観感がより強く強調される所が情感深いです。
一見エネルギー量で押しきるように見せて、かと思えば引きのパートでリスナーを心地よく惑わす。
リズム自体もかなり変則的ですが、そこから伝わる感情の質も1つではない、激情も緊迫感も悲しみ、色とりどりな思いが詰め込まれた歌だと思います。
電子音主体の曲ですが決して機械的ではなく、それこそ「灼熱」のような熱を聴き手に与えてくれる楽曲です。
ノリのよさと儚いメロディを同時に楽しんでみてください。
それでは。