B'z『STAY GREEN 〜未熟な旅はとまらない〜』
今日はB'z『STAY GREEN 〜未熟な旅はとまらない〜』について。
アルバム「GREEN」収録。
この曲は、日本のロックユニットB'zが2002年に発表したロックチューンです。
タイトルの通りに、「若い頃の無鉄砲さ」をそのまま音にしたような曲。
まず音質。
日本のトップグループB'zとしては珍しいほど、ややザラザラとした荒っぽい音で、丁寧さよりもノリを重視したようなサウンドになっています。
ギターが当然ながら松本孝弘、ドラムが山木秀夫、ベースに吉田建とそうそうたる実力派プレイヤーがそろっていて、本来ならもっと整った音は出せるのでしょうが、それでもあえてこういうサウンドを作るのは、ある意味冒険的。
音色自体がそのまま作品のテーマを表しているようです。
楽曲の方は、従来のB'z的のロック曲と大差はないストレートなもの。
ただし前半部分で使用されているボリューム奏法や、間奏部分でのオリエンタルなメロディなど、随所に工夫が見られます。
一見パワープレイで押しきるように見せて、さりげなくこういう遊びを混ぜる所が、相変わらず面白いですよね。
曲もエネルギッシュですが歌詞も熱いです。
「やたら素直にうなずいて 平和だなんて見栄を張って」
「そのうちオマエは ムチウチ症 前も後ろも進めない」
将来への不安のあまり、ガチガチに固まってぎこちなく日々を過ごす人を「ムチウチ症」と形容する突飛さ。
辛口ながらも、コミカルな稲葉ワールドが前面に出た歌詞です。
世界観がどことなく、
「無菌状態に慣れ過ぎ みんなあちこち弱ってる」
「さよならしよう じっと電話をまってる日々に 旅すりゃいい 僕はさまよう 蒼い弾丸」
のフレーズで知られる、で90年代にリリースされた「さまよえる蒼い弾丸」を連想させます。
あの曲のテーマも「蒼い(未熟な)からこそ、彷徨いながらも突っ走る事ができる人」で、この『STAY GREEN』に通じる所が作品ですが、この曲はさしずめ
「さまよえる蒼い弾丸」の兄弟分と言える楽曲かもしれません。
昔からB'zのファンの人ほど、この曲を聴きながら、「稲葉は昔からこういう詞が好きだなぁ」と一種のノスタルジーのような感覚を楽しめるのではないでしょうか。
キメどころの
「未熟な旅はとまらない 最期まで STAY GREEN」
は、本作のカッコよさの最高潮。
つづりが「最後(物事の終わり)」ではなく「最期(命の終わり)」で、「俺は人生の終わりまで、挑戦を楽しみ続ける」というロック感満載のメッセージでサビを締めくくる。
稲葉浩志(Vo)の、日本ボーカリスト屈指と呼ばれる声量でこのフレーズを叫ばれると、本当に何かに挑みたくなってくるような気概が胸に溢れてきます。
高年齢層のリスナーには、忘れかけていた情熱を、若者には未来へ踏み出す一歩の後押しをしてくれるような作品ではないでしょうか。
タイトルの通りの若い勢いと、老練した工夫が散りばめられた曲を聴いてみてください。
それでは。
戸松遥『courage』
この曲は日本の声優兼歌手、戸松遥が2014年にリリースしたポップロックです。
松岡禎丞、戸松遥、悠木碧が声優として出演している事でも知られるアニメ「ソード・アートオンラインⅡ」のOPテーマとしても有名。
グルグル変わる展開が魅力的な曲。
Aメロは軽やかなメロディアスポップ。
耳に馴染みやすいキャッチーな雰囲気で、聴き手をすっと楽曲の世界に連れていってくれます。
まるでアニメのキャラクター達の、迷いを振り切った強い意思を表しているかのような、まっすぐな佇まいのパートです。
しかしBメロの「叫んだ声は きっと届くから」から急変化。
ビートがハードなロック調になだれ込み、体感速度が倍速ぐらいにアップ。
ドラムのリズムパターンがこれでもか、というぐらいハッキリ変化。
ここではキャラクターの背負う悲しみや重い葛藤を感じます。
そしてサビ。
キャッチーな歌メロと疾走感を兼ね備えた、メロディアス・ロックが展開。
Aメロのメロディアスポップと、Bメロのハードロック調を足して2で割ったような構成です。
Aメロでの「意志」。Bメロでの「葛藤」両方が感じられて、まるで「その全てを携えて前に進もう」という覚悟を表しているかのよう。
この短い時間に、これだけ多くのドラマ性を詰め込まれた構造は圧巻です。
歌い手が戸松遥であることも重要。
彼女の、女性的な柔らかさがありながらもハスキーな歌声は、この作品に込められた激しく、優しい感情にピッタリはまるんですよね。
特にハイトーン部分で、少しだけ力んだような声質になる部分が良い。
ナチュラルで余裕がある発声も良いですが、こういうメロディアスながらも切実感のある作品は、こういう歌い方の方がエモーションを感じる事が出来ると思います。
戸松遥自身がこのアニメに声優として出演している事もあるのかもしれませんが、「このパートは、こういう風に歌った方が楽曲に込められた想いが伝わる」と、明確に把握しながら歌っているイメージ。
発売2週目で3万枚を突破した彼女自身の最大のヒット曲ですが、それは楽曲のクオリティと、それを歌いこなす戸松遥との化学反応からくる爆発力にひきこまれたからではないでしょうか。
作品の完成度、感情の量も、どの面から聴いても凄い曲です。
物語がそのまま音楽になったような音楽を聴いてみてください。
それでは。
エアロスミス『Eat the Rich』
今日はAerosmith『Eat the Rich』について。
アルバム「Get a Grip」収録。
この曲は、アメリカのロックバンドAerosmithが1993年に発表した王道ロックです。
ラフの中にも遊びが詰め込まれた曲。
全体的な曲風は「ザ・アメリカンハードロック」というほどストレートな米国ロックなのですが、スティーヴン・タイラー(Vo)のラップ調の歌いまわしの導入など、当時としては画期的な試みが組み込まれています。
ロックにラップ的な歌唱を入れる、という流れ自体は、ロック創成期のレッド・ツェッペリンの「移民の歌」など前例はあるのですが、ここまでハッキリしたラップ調を入れたのは新しかったと思います。
ラストに、タイラーの「グゥエップ!」というとても大きなゲップ音が。笑
至高のロックボーカリストはゲップまで常人離れしたパワーを持っているのでしょうか。
ファンの間でも賛否ある演出のようですが、個人的には好きな演出です。笑
構成的にも様々な工夫が詰め込まれていて相当面白い。
一見陽気で、押せ押せなざっくりした作りですが、
ジョー・ペリー(Gt)のソロに入るとメロディだけじゃなく、極めてカッコいいリズムのフレーズ。
この世に美旋律やテクニック路線のギターソロは数あれど、音同士の間の取り方に着眼点を置いたようなソロは珍しいと思います。
そして、それ以外にもソロ後半で音程がガクンッと下がる部分。
一瞬アームダウンかと思いきや、噂によればなんとこのフレーズ直前に、ペグを素早く緩めて、急速に音程を変化させる、という変則プレイとのこと。
ギターの世界で「テクニック」と言えば高速のスイープやタッピングを連想しがちですが、これが事実なら、これもいわば真似の難しい1つのテクニックですよね。
ジミーにしてもジョーにしても、あの時代のロックギタリストは、まだ「ロック」という音楽に定番の型が無かった分、独創的なプレイヤーが多かった気がします。
まだロックが発足したての頃のミュージシャンならでは強み。
良い意味で時代を感じさせてくれる作品です。
肩の力が抜けているようで、締めるところは締める。そんな楽曲聴いてみてください。
それでは。
フランク・シナトラ『My Way』
今日はFrank Sinatra『My Way』について。
この曲はアメリカの歌手Frank Sinatraが1969年にリリースしたポップバラードです。
作曲がクロード・フランソワ、ジャック・ルヴォー。
作詞には「ダイアナ」で有名なポール・アンカが関わった事でも知られています。
原曲は1967年のクロード・フランソワのフランス語の曲「Comme d'habitude」ですが、本作はポール・アンカが独自に詞を書き換えて発表した別バージョン。
個々の生き方を考えさせられる曲。
「少しは後悔もあったよ」
「けれど、今となっては口に出す程じゃないほど些細なことだ」
「やるべきことはやったし、免除してもらうようなこともなかった」
元々、原曲の「Comme d'habitude」はオーソドックスな男女の離別の歌でしたが、この曲は
「死期が近い主人公が、これまで自分に訪れたあらゆる困難に対して行った事に後悔せず自信を持っている」
と語る内容にアレンジされています。
人生の起伏も酸いも甘いも受け入れるような渋みがあるメッセージ。
それを、「ザ・ヴォイス」の異名をとるほど豊かな表現力を持つフランクが歌う事で、聴き手の心の深いところまで染み渡るような厚みが演出。
エルヴィス・プレスリーや、セックス・ピストルズのシド・ヴィシャス、U2などそうそうたる顔触れにカバーされている作品ですが、それは同じく偉大なアーティスト同士だからこそ共感しあえる「深み」ようなものがあるからかもしれませんね。
作詞の面だけじゃなく楽曲的にも秀逸。
現代ポップスのような派手さ、クッキリした華やかさは無いのですが、静かながらズッシリした芯があり、「時代を越え普遍的に愛される曲」を地でいくような古風な魅力をはなっています。
アメリカのバラード曲らしく後半に進むにつれて迫力を増していく構成なのですが、その盛り上がったパートと、後半の詞、
「記録は私が戦ってきたことを示している 自分の信ずるままに」
「そう、自分の信ずるままに」
がシンクロしていく部分は背筋がゾクゾクするほどの尊さ、熱量を持ち、聴き手が一度聴いたら忘れられない高揚感を感じることが出来るパート。
この「マイ・ウェイ」はイギリスで最も葬儀で演奏される曲だそうですが、それは多くの人が愛する故人の魂にこの曲を送って、「あなたが遺した思い出は、私達の心の中にずっと残っている」というメッセージを届けたいからなんでしょうね。
世界的知名度のみならず、作品に込められた情味が溢れるような曲です。
この曲を聴きながら、自分なりの「人生の全うの仕方」をイメージするきっかけにしてみても良いのではないでしょうか。
それでは。
川田まみ『Serment』
今日は川田まみ『Serment』を聴いた感想を。
この曲は日本の女性歌手、川田まみが2012年にリリースしたポップロックです。
釘宮理恵、江原正士、日野聡が声優として出演しているアニメ「灼眼のシャナIII-FINAL-」のOPテーマだった事でも有名。
スリリングな電子ロック。
ニュー・ウェイヴ色が混ざった鮮やかな音色のロックが、アップテンポでグイグイ聴き手の鼓膜に迫っていきます。
テンポは速めでもメロディはキャッチーで哀愁がある、という昔ながらのアニメソング的強さを持ちながらも、サウンド自体は新しく瑞瑞しい、という現代的強さを持っている、贅沢な構造の作品です。
楽曲自体のクオリティもさることながら、目立つのは川田まみの歌唱力。
下積み時代「春生楽(HAURA)」というボーカルスクールで基礎からみっちり学んだ王道派の歌い手であり、若さからくる勢いと、中音~高音域までスムーズに繋ぐボイスコントロールで聴き手を魅了してくれます。
声を伸ばす場面では彼女名物の「まみびぶらーと」を披露。
光線銃の効果音のような声の波で、楽曲のリズムを心地よく振動。
デジタルサウンドが全面に出ているのに、楽曲に情感が溢れて感じるのは彼女の歌唱法も大きいと思います。
ラストの「そう 「それだけ。」」のロングトーンで、徐々に声が薄れていくパートは本作のクライマックス。
一般に「クライマックス」というと、歌メロのキーが跳ね上がったり声量を増したりするもの。
しかしこのパートはむしろボリュームを落としているのに、むしろ痛切な雰囲気が漂っているところがユニーク。
シャープな曲構造と、エネルギッシュなようで儚さがある歌声の対比が扇情的な作品です。
機械音主体なのにロマンティックな曲を聴いてみてください。
それでは。
ミスター・ビッグ『Colorado Bulldog』
今日はMr.Big『Colorado Bulldog』について。
アルバム「Bump Ahead」収録。
この曲は、アメリカのHR/HMバンドMr.Bigが1993年に発表したテクニカル・ハードロックです。
とにかく演奏陣のスキルが楽しめる曲。
エリック・マーティン(Vo)のパワフルながら流水のように無駄の無い歌声もさることながら、バックのメンバーが目立ちまくる構成になっています。
まずイントロ。
元々ビリー・シーン(Ba)が原案を出して、それをポール・ギルバート(Gt)に提案したパートだそうですが、鬼の速さのソロが一瞬でリスナーの耳を捕らえます。
その難易度は、後に加入したリッチー・コッツェン (Gt)がこの曲の演奏を任された時に「ちょっと待て!」となってしまったほど。笑
リッチー自身も相当なテクニカルプレイヤーで、このバンドに加入する際ポールの後釜を任された時も「まぁ問題ないでしょ」と少し自信ありげに考えていたそうですが、初めてこのイントロを聴いた時は驚いてしまったようです。笑
ただそのイントロさえ、ポール自身は3日で身につけてしまったそうですから、一時は「世界最速」の異名をとったギタリストの威厳を見せつけてくれますよね。
RACER Xっぽいところがあるのも彼のファンからすれば嬉しいところではないでしょうか。
ビリーも、特に中間部の方で大活躍。
そこでもポールも相当な速弾きですが、ビリーも激速のフィンガリング。
速いのですが、それでいてメロディも流麗でポールとソロバトルをしているようなスリルを感じさせてくれます。
日本でもメロディックなプレイをするベーシストとしてL'Arc~en~Cielのtetsuyaがいますが、本作はソレに更にHR/HMのスピードを上乗せさせたような構造。
まさにビリー流「歌うベース」。
パット・トーピー (Ds)のドラミングもエネルギッシュながら的確。
ハイスパートなのですが、高難度のシャッフルビートをさらりとこなしていて、力強くも精密な弦楽器隊に綺麗に噛み合うプレイです。
随所でパットの代名詞の、スネアによるグレースノートがあるところもオイシイ。
メンバー全員に「テクニカルながらスピーディー。スピーディーながら音色もキッチリ作り込む。」というところが共通している楽曲です。
技術志向があまり好みじゃない人にも、総合点で訴えかけるモノがある作品だと思うので、是非聴いてみてください。
それでは。
セリーヌ・ディオン『To Love You More』
今日はCéline Dion『To Love You More』について。
この曲は、カナダ出身の歌手Céline Dionが1995年にリリースしたポップバラードです。
鈴木保奈美、岸谷五朗、鈴木京香、長瀬智也が出演した事でも知られるドラマ「恋人よ」のEDテーマだった事でも有名。
「あの娘は私のように愛してはくれない 私だけがそばに居られるの」
「あの娘が去れば 私がまだあなたのところにいるのに気づくの」
見る人によっては純粋、見る人によってはヤンデレ風味な歌詞が印象的な作品です。
葉加瀬太郎率いる音楽ユニツト「KRYZLER & KOMPANY」と共演した事でも話題になりました。
後半に進むにつれて壮大になっていく、という流れはセリーヌ・ディオンのもう1つの超名曲
「My Heart Will Go On」(映画タイタニック主題歌)と同系統の曲にも聴こえますが、本作はバックのドラミングがかなり激しく、ややロックバラードよりと言えるかもしれません。
それでも高音域のぶ厚さ、職人芸とでも言うべき声色の濃淡の繊細さなど「セリーヌ・ディオンのバラード曲」らしさは失われていないのですが。
アメリカ&日本の玄人音楽ファンから人気のギタリスト、マイケル・トンプソンの奏でる音色もクッキリしながらも澄んでいて、まるで宝石のような輝きをはなっています。
プレイ面でも超一流の作品ではないでしょうか。
単純な売り上げ面で言えば、世界的には前述の「My Heart Will Go On」の方が高いでしょうが、実は日本国内に限ってはそれすら上回るセールスを記録しているんですよね。
その売り上げ枚数は、なんと驚異の126.4万枚。
ダニエル・ブーンの「ビューティフル・サンデー」に次ぐセールスです。
プレイヤーがメジャー&マイナー層両方から人気のメンバーが揃っているから、というのもあるでしょうが、やはり作詞作曲、プロデュースにデイヴィッド・フォスターが関わっている、というのが大きいのでしょうね。
ホイットニー・ヒューストン、マイケル・ジャクソン、シカゴ、マドンナ、などそうそうたるアーティストをプロデュースしてきた世界最高水準のプロデューサーですが、そのメロディックながら鋭いメッセージ性を兼ね備えたセンスは本作でも遺憾なく発揮。
セリーヌ・ディオンの精密な歌声と肩を並べる緻密なクオリティの楽曲が、互いを支え合い、高めあい、並のポップス曲とは次元違いの世界を表現しています。
限り無く完全に近い完成度のバラードです。
オリコン洋楽シングルチャートで18週連続1位、日本の洋楽(シングル部門)で歴代2位を記録した曲を聴いてみてください。
それでは。