インペリテリ『Lost in the Rain』
今日はImpellitteri『Lost in the Rain』について。
アルバム「Impellitteri」収録。
この曲は、アメリカのHR/HMバンドImpellitteriが1987年に発表したヘヴィメタルです。
「未だ 君は立ち止まっている 雨の中で道に迷う」
「何も得る物が無く 雨の中で道に迷う」
虚しいメッセージが込められた本作は、インペリテリの原点とも言える、ハイスパートなメタル曲です。
若かりし日のロブ・ロック(Vo)の歌声が凄まじい。
現在でも非常に声量のあるハイパワーボイスを響かせる彼ですが、初期の時点で既にその片鱗を覗かせてます。
高音域のロングトーン、深いビブラートは、まるでサイレンのよう。笑
良い意味で人間離れした歌声です。
クリス・インペリテリ(Gt)のギターソロは、他の彼の大半の楽曲よりもかなりスピーディ。
聴き手は集中して聴かないと、音の粒を聞き漏らしてしまうのではないでしょうか。
当時からインペリテリというと当時から、その革新的なまでの速弾きからスピード面ばかりがフューチャーされがちですが、この曲を聴くとそれ以外の美点も多々見られます。
そもそもギターソロも速いだけじゃなくメロディも流麗ですし、ドライブ感のあるリフ、そしてさりげなく哀愁漂う歌メロ。
インペリテリのデビュー後、スピードだけなら似たような速さのバンドが何組かデビューしましたが、それでも彼らが根強いファン層から支持されているのは、その速さ以外の部分にも、質の違う魅力を感じているからではないでしょうか。
一時期メタル界では速弾き不要論が語られたこともあります。
確かに速いだけで情味の無い演奏は人の心に届きにくいものかもしれませんが、逆に言えば彼らがデビューしてから30年たった現在でも沢山のリスナーから愛されるのは、インペリテリの楽曲はスピードだけが魅力ではない、という何よりの証拠ですよね。
彼らの楽曲の中でも特に長い時間支持される本作は、インペリテリの偉大さを証明している作品の1つだと思います。
過激なリズムと悲しげな旋律の曲を聴いてみてください。
それでは。
宇多田ヒカル『Automatic』
今日は宇多田ヒカル『Automatic』について。
この曲は、日本のシンガー・ソングライター宇多田ヒカルが1998年にリリースしたポップバラードです。
ウッチャンナンチャン、ネプチューンが出演していた事でも知られるバラエティ番組「笑う犬の生活-YARANEVA!!-」のEDテーマだった事でも有名。
宇多田ヒカルを、一息にスターダムに押し上げた曲です。
当時まだ15歳だった事でも話題になりましたが、しかも自分で作詞作曲までこなして、それがデピュ1作目で大ヒットまでしたわけですから、もはや偉業の領域。
曲調的にはJ-POPをベースにしながらも、彼女の生まれ故郷でもあるアメリカのR&Bの要素を多分に織り込んだもの。
本作を聴いた元SMAPのメンバー稲垣吾郎が「ソウルが日本人じゃない」とコメントするほど。
母・藤圭子から受け継いだ日本的なデリケートなメロディセンスと、幼い頃を過ごした環境から受け継いだアメリカ的ノリが彼女の唯一無二の個性ではないでしょうか。
けれど、その曲に負けないくらい面白いのは歌詞。
「アクセスしてみると 映るcomputer screenの中」
「チカチカしてる文字 手をあててみると I feel so warm」
コンピューターの画面に手で触れた時の感覚を指して「とても温かい」。
普通、作詞家の世界では、好きな人の手を握った時の感覚などをそう表す事が多いと思いますが、パソコンに触った時の感想をそう表現する詞は珍しいのではないでしょうか。
井上陽水がインタビューでこのフレーズに関して、
「無機質なものに対して温かさを感じるという当時15歳の宇多田ヒカルの感性に驚いた」
と語っていますが、当時すでに彼女の詞人としての才能はベテランのプロアーティストを唸らせる次元にあったわけですね。
歌声自体も実の年齢に不釣り合いなほど艶っぽく品があり、色んな意味で大人の雰囲気を醸し出している曲です。
ダンサブルながら高級感のある曲を聴いてみてください。
それでは。
Dir en Grey『C』
今日はDir en Grey『C』を聴いた感想を。
アルバム「Withering to death.」収録。
この曲は、日本のロックバンドDir en Greyが2005年に発表したオルタナティヴ・メタルです。
「実際 愛したい 目の前の世界を」
「実際 でももう…」
社会に対する諦めの気持ちを暗に示した、Dir en Greyらしい絶望の歌詞の曲。
けれどサビに入ると
「叫ぶ事を忘れたのならば ここで叫びここに生きろ」
「何度死んでも叫び向かうさ 声を壊し心で叫べばいい」
作詞者の京(Vo)いわく、詞は
「敢えて熱いな、クサいなっていうものを書きたかった」
そうですが、「死んでも叫ぶ」という情熱的な世界観の詞は、確かに京の詞には珍しいですよね。
「Die Young(若くして死ね)」で有名な伝説的HR/HMバンド、ブラック・サバスを連想させます。
歌詞だけじゃなく、曲調も彼らの曲としてはあまり例が無いタイプの作品。
非常にストレートなオルタナティヴ・メタルです。
元々Dir en Grey自体、初期のメロディアスロック路線の曲と、中期以降のメタル路線の曲でファン層が別れるバンドですが、絶妙にその中間を縫うようなスタイル。
リズムもShinya(Ds)が多用する変拍子は無く、直球勝負なスラッシュビート。
しかしフィルの入るタイミング、減速パートなどの抑揚の程度が的確な為、起伏のあるドラマ性が演出されています。
Shinyaというと複雑なプレイばかりがフューチャーされがちですが、こういうシンプルなプレイをしても充分絵になるドラマーですよね。
サビは京の驚異的な連続高音域パート。
本作が発表された約1年前に受けていたインタビュー時に「ハイトーンにはもう懲りた」と発言していたにも関わらず、随分気合いの入った歌唱です。笑
高い声を出してもあまり叫び声にならず、ナチュラルな太い声で歌える所はやはり彼の歌い手としての才能。
ファンの間でも「カラオケで挑戦したけど、歌えなかった」という声が続発しただけはあります。笑
好きなのはBメロでのリズムチェンジのパート。
楽曲の途中までは激しい演奏をして、一気にメロディアスになる、というのは彼らの曲の構成の基本。
ですが、このリズムチェンジパートでの歌メロの美しさは至上の領域です。
個人的には、一回聴いただけでも直ぐに好きになったパート。笑
ここのパートだけHR/HMでは無く、哀愁のあるロックバラードのようです。
京の声に重なるハモりも鮮やか。
ちなみに余談ですが、発表前の段階ではギターソロパートの導入も検討されていたようですが、結果的には立ち消えになってしまったもよう。
そもそもDir en Greyの曲の大半はギターソロパートが無いんですが、まぁ彼らに限らずオルタナ系のメタバンドの曲はギターソロが無い場合が多いんですよね。
なので無くても自然ではあるのですが、後の「DIFFERENT SENSE」に見られるように、彼らのギターソロのフレージングセンスは素晴らしいものがあるので、出来れば入れて欲しかったなぁ、と思います。笑
メロディアスなうえ演奏時間も約3分少しと短いので、Dir en Greyの入門曲としてもオススメですね。
それでは。
イングヴェイ・マルムスティーン『Rising Force』
今日はYngwie Malmsteen『Rising Force』について。
アルバム「Odyssey」収録。
この曲は、スウェーデンのHR/HMミャージシャンYngwie Malmsteenが1988年に発表したネオクラシカルメタルです。
イングヴェイの楽曲としては珍しい、オーソドックスな要素を多分に含んだメタル。
基本的にはクラシックとメタルが5:5の割合で混ざったような楽曲を作る彼の作品の中では貴重な、正統メタルよりのタイプの曲の為、発表時、ファンの間では話題になりました。
他のイングヴェイの曲と比べて毛色が違うのは、本作の原曲は、彼自身がなんと14歳の時に生み出されている、というのも大きいのかもしれません。
厚みのあるキーボードの音から、単音弾きのリフが始まる展開がかっこいい。
ジョー・リン・ターナー(Vo)のハスキーな歌声も曲にマッチしています。
荒々しくも品のある声質は、それだけでイングヴェイ曲の世界観を体現しているようです。
そして極めつけは、イングヴェイとイェンス・ヨハンソン(Key)の超高速ユニゾン。
音の数が多すぎて、他パートを飲み込む勢い。
けれど、そこはやはりネオクラシカルメタル。
ギター+キーボードでかなりの音数なのに、しっかり美しさを保っています。
イングヴェイの言葉に「「速く弾く」っていうのは、チョーキングやビブラートと同じで、強力な表現技法の1つだと思う。」とありますが、このソロこそその代表例ではないでしょうか。
今では「テクニックには限界があると思うけど、メロディの美しさには限界は無い」という持論を持ち
、速弾く事には拘らなくなっていった彼。
しかし彼の速弾きにはその辺の速弾き系ギタリストとは違う繊細さがあり、速く弾いてる時は速く弾いてる時で相応の魅力があると思います。
日本のギタリストにも明らかに彼にインスパイアされたと解るギタリストが沢山いるように、彼の生み出した表現法は本当にロック界に多大な貢献をしてくれましたよね。
テクニカルなだけではない、美しさと偉大さを兼ね備えた曲を聴いてみてください。
それでは。
B'z『イチブトゼンブ』
今日はB'z『イチブトゼンブ』について。
この曲は、日本のロックユニットB'zが2009年にリリースしたポップロックです。
山下智久、北川景子、相武紗季が出演した事でも知られるドラマ「ブザー・ビート〜崖っぷちのヒーロー〜」のEDテーマとしても有名。
また日本レコード協会から、「第24回日本ゴールドディスク大賞 ザ・ベスト5ソング」の栄誉を授与された事でも知られています。
とてもアクティブな曲。
それまでB'zのポップ・ロック系の曲は、ややHR成分の強いものが多かったですが、音色的にはこの曲はかなりソフトな作品。
とは言えメロディの基盤はペンタトニックという、従来の松本孝弘作品の伝統をなぞっているので、適度に「B'zらしさ」も残してくれています。
ちなみに演奏陣にはなんと、ドラムにレッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス、ベースにマーズ・ヴォルタのホアン・アルデレッテという、世界的ミャージシャン達が参加。
普段より強調されたリズム隊のサウンドが、演奏の土台をカッチリと支えてくれています。
曲調的にもサウンド的にも、他のB'zのロック曲とは一線を隠す方向性です。
歌詞は、愛の悟りを開いたような内容。
「愛しぬけるポイントがひとつありゃいいのに」
「もしそれがきみのほんのイチブだとしても」
「何よりも確実にはっきり好きなところなんだ」
この歌詞について、作詞者の稲葉浩志は
「私たちが大切な人を思うとき、時間が経つにつれ、ついついあれもこれもと全部を相手に求めてしまいがちですが、最初に愛しいと感じた確固たるポイントさえ忘れなければ、幸せな気持ちでいられるんじゃないでしょうか」
と語っています。
人の中には、例えば自分の恋人に対して「プライベートでの趣味を自分好みにして欲しい」とか「自分以外の異性と関わらないで欲しい」のように、個人的な願望を執拗に押し付けたがる人もいます。
そういう人達に向けた「本当に好きになれる所を1つ見つけたら、他の細かい所はどうでも良くなるはずだよ」という想いが込められた内容。
よく「あれも欲しいこれも欲しい、がわがまま。あれも要らないこれも要らない、これ1つがあれば良い、が純粋。」とは言いますが、ある意味究極に純粋な愛の歌ではないでしょうか。
「愛のままに わがままに 僕は君だけを傷つけない」もそうですが、稲葉の歌詞には「他の事はいいけれど、これ1つだけは愛し貫く」という世界観の詞が多い気がします。
これもまたB'zの「伝統」的な部分ですよね。
柔らかな音に芯の強いメッセージがのる曲を聴いてみてください。
それでは。
ナイトメア『時分ノ花』
今日はナイトメア『時分ノ花』を聴いた感想を。
この曲は日本のロックバンド、ナイトメアが2005年にリリースしたロックチューンです。
BS2番組「週刊なびTV」のEDテーマ曲としても知られています。
作詞・曲ともに咲人(Gt)。
ナイトメア屈指のドライブ感を持つ曲。
YOMI(Vo)のボーカルから入る曲ですが、バラードのように切なげに歌声が響いた直後、疾走パートに突入します。
テンポが速く、RUKA(Ds)切れ味鋭いビートを刻んでいますが、メロディはナイトメア節の美旋律。
キャッチーですがただ親しみやすいだけじゃなく、綺麗な影がある、哀愁のあるメロディが印象的です。
この曲でユニークなのは歌詞だと思いますが、咲人いわく「外見だけでなく中身をレベルアップさせていきたい」という想いを込めたメッセージ。
「形を決めた想い 今が消えても残る」
「「まことの花」に―。」
タイトルの『時分ノ花』は、日本が誇る伝説の猿楽師、世阿弥の書いた古典「風姿花伝」に出てくる言葉で、意味は「若い間だけ保てる美しさ」。
人間が持てる美しさは大別して二種あり、1つ目は基本的には若い内しか保てない「外見的な美」(時分の花)で、2つ目は努力や工夫の積み重ねで内から滲み出る「内面的な美」(誠の花)。
「今が消えても残る まことの花に」とは、「いつか若さを失い、ヴィジュアル的な魅力を失っても、アーティストとしての努力で人を楽しませることができる人になりたい」という、咲人の理想を綴った詞ようですね。
元々メジャーのバンドの中でも高いギターテクニックをもつ咲人ですが、既にオリコン上位に食い込むバンドのギタリスト、という位置を手に入れているのに、それでも緩む事なく上を見続ける姿がかっこいいと思います。
ストイックな決意表明が込められた清廉な歌詞です。
ちなみにこの曲は、ライブでは歌詞を少し追加されて歌われる事があります。
「明日への祈り 終わらない時いまここで」
「共に過ごした確かな証 忘れない様に」
「この胸に刻み込む」
彼らにとってはファンと共に過ごした時間と喜びもも、いつまでも胸に残り続ける「まとこの花」のようですね。
それでは。
ロイヤル・ハント『Time』
今日はRoyal Hunt『Time』について。
アルバム「Moving Target」収録。
この曲は、デンマークのプログレッシブメタルバンドRoyal Huntが1995年に発表したネオクラシカルメタルです。
とても荘厳なメタル。
激しくも優美で、それでいて聴き手を飽きさせない展開など、見事なクオリティを誇っています。
耳を奪われるのは、演奏陣の中ではアンドレ・アンダーソン(Key)のプレイ。
それはもちろん中間部分での美麗ソロの事でもありますが、そもそもリフがキーボード主体、という楽曲自体HR/HMの中でも珍しいのではないでしょうか。
ヴァン・ヘイレンのキーボードリフはキャッチーさ、温かみを漂わせますが、アンドレの演奏から感じるのは華麗さと、高級感。
ラプソディやソナタ・アークティカほど派手なプレイではありませんが、あえて強く自己主張しない事でギター、ベースの音と調和を保っているイメージでしょうか。
キーボードとは違う意味で映えているのがDCクーパー(Vo)の歌声。
高音域の歌声もさることながら、特徴的なのはそのトーンの美しさ。
中音域から高音域への移行がとてもスムーズ。
特に高音部分での艶やかさは、個人的にはアンドレマトス(アングラ)に匹敵するほど。
最高音でのファルセットの声色は幻想的ですらあります。
美声の女性コーラス、マリアとリーゼと共に入るアカペラパートは絶品。
メタルボーカルらしく基本的には声量のあるボーカルなのですが、この太い声で悲痛さ、儚さを演出できるなど、高い感情表現力も見せつけてくれます。
基本的にメタル界では、ネオクラシカル、メロディックメタルのボーカルは上手い人とそうじゃない人の差が激しい、と言われがちですが、このDCクーパーがメンバーである事がRoyal Huntの強み、と言えるほどのパワーのあるボーカルです。
メタル曲としては短い演奏時間なのに、それを感じさせない濃密さを持つ曲を聴いてみてください。
それでは。