今日はDavid Bowie『Life On Mars?』について。
アルバム「Hunky Dory」収録。
この曲は、イングランド出身のシンガー・ソングライターDavid Bowieが1971年に発表したエレクトロニカです。
まるで寄り添うような歌詞が美しい曲。
フランク・シナトラの「May Way」へのオマージュ曲との事ですが、ただ、「May Way」の詞担当のポール・アンカの詞が
「我が友よ 君にはっきり言いたい」
「僕自身の事」
「僕が確信を持って言える事」
「僕は力の限りこの人生を生きたという事を」
と決意表明のように自己肯定感に満ち溢れた作品なのに対し、ボウイの詞はこう。
「でもママは『駄目よ」』と怒鳴り」
「パパは『出ていきなさい』と言う」
「でも友達はどこにもいない」
「そして彼女は沈んだ夢の中を歩く」
「そして銀のスクリーン(映画)にひきつけられる」
「みてよ、あの執行官たら殴る相手を間違えてる」
「もう嫌!この人はいつ気付くのだろう」
「自分が今大ヒット中の映画に出てるって」
「もしかして火星に生き物はいるのかな?」
ボウイいわく「感受性豊かな女の子がメディアに反応している歌」。
また、
「少女は何処かに素晴らしい人生があると聞かされているんですけど、それを見つける事が出来ない現実にひどく失望しているんです。」
とも語っています。
「こんな馬鹿げた事件、くだらない事象ばかりが起こる現実世界なら、もはや火星に生き物がいたとしてもおかしくないかも」
思わずそう感じてしまうほど、少女は現実に絶望している状態なんですね。
そもそもボウイがこんなダークな歌詞を書いた理由は、一説には前述の「May Way」への対抗意識。
昔フランスの名曲「Comme d'habitude」にボウイが英語詩をつけたカバー曲をリリースしようとしたのですが、レコード会社からボツに。
その後ポール・アンカが英語詩をつけた「Comme d'habitude」(May Way)が大ヒットしたので、ボウイはおそらく少し悔しかったんですよね。笑
コード進行をほぼ同じにしてまで、「自分なりのMay Way」を表現したかったようです。
ただ、面白いのがその目論見が功を奏し、その『Life On Mars?』がボウイ曲屈指の人気作品になった事。
8年前に行われたファン投票においても、好きなボウイの曲ランキングで1位を獲得。
怪我の功名ではないですが、結果的に「May Way」に勝るとも劣らない世界のポップ史に残る名バラードを生み出しました。
「May Way」の力強く気高い世界観も良いですが、この世に空しさを覚え、ふとした瞬間に夢物語の世界に逃げたくなるナイーブな人達の想いを受け入れてくれる『Life On Mars?』も、それと対をなす尊さがあるのではないでしょうか。
夢の中でそばにいてくれるような優しさを感じる詞です。
楽曲的にもインパクト大。
一見しっとりしたバラードですが、ボウイがかなりのハイトーンを出すパートもあり、意外とアグレッシブ。
テンプルズのジェームス・バッグショーが
「この曲は本当にキャッチーで、それでいて本当に型破りなんだ。すごい高音になるところがそうで、かなり大胆だよね。」
「仰々しくなくて、巧みで、完璧に二項を両立させているんだ。」
と語るように、ポップスの親近感とミュージカルのようなスケールを感じさせてくれる、多面性でも楽しませてくれます。
その後のUKーPOPの先駆けとも言える曲です。
親しみやすいのに強烈な独創性を持つ曲を聴いてみてください。
それでは。