ロイヤル・ハント『Last Goodbye』
今日はRoyal Hunt『Last Goodbye』について。
アルバム「Moving Target」収録。
この曲は、デンマークのHR/HMバンドRoyal Huntが1995年に発表したネオクラシカルメタルです。
とても演劇要素の強い曲。
ネオクラシカル自体がそういうジャンルなので当たり前と言えば当たり前ですが、メロディラインが、実際のクラシック曲で使用されるような音階の為、更にオペラ成分を強くしています。
展開も起伏が大きく交響曲並。
しかしアンドレ・アンダーセン(Key.Gt)の奏でるキーボードリフがまるでミステリ系映画のBGMのようで、クラシック的優雅さの中にも、ひんやりとしたスリルが楽しめるところが印象的です。
さりげに光るのはケネス・オルセン(Ds)のドラム。
意外と手数が少ないんですよね。
現在のパワー、ネオクラ系のメタルバンドのドラムは高速化、手数の増加が進んでいるイメージ。
ですが、90年代作曲の本作は、言うほど激しいわけでもなく、リズムを成立させる為に必要最低限叩いているような冷静なプレイです。
ドラムは攻撃的に叩きまくるかっこ良さもありますけど、こういう、「必要なとき、必要なぶんだけ叩く」ドラミングも仕事人的クールさがありますよね。
そしてその洗練されたリズムにのせられたD.C.クーパー(Vo)の熱唱ボイス。
良い意味のクドさがあり、インペリテリのザ・漢声ボーカル、ロブ・ロックに匹敵するエネルギッシュさがあります。
地の歌唱力も驚異的。
中音域が非常に太く、高音域に入ると一転、歪みがかかったヘッドボイス。
どちらもが妥協無しに磨きあげられた声で、味、テクニックが高次元で融合した歌声になっています。
「Burn!」から受賞したベスト・ボーカリスト賞は伊達じゃありません。
ちなみに有名な話ですが、プロレス番組の中継のEDテーマで本作が使用された事もあります。
アンドレ・アンダーセンが、何故か日本のプロレスラー蝶野正洋と友人という意外な交遊関係を持っている為、おそらくその繋がりで使用されたらしいですが、レインボーの「Eyes of the World 」、ブラック・サバスの「Iron Man」など、熱く荘厳なメタルはやはり格闘技と相性が良いですね。
とても品のあるメタルですが、それだけじゃない、熱量と更に、それと相反するような、受け入れやすい旋律とのギャップが本作の魅力。
濃い味の中にも、解りやすさがある所が「本物」といった感じがします。
異次元的スケールと親近感のあるメロディが共存した曲を聴いてみてください。
それでは。
DREAMS COME TRUE「何度でも」
今日はDREAMS COME TRUE「何度でも」について。
この曲は、日本のバンドDREAMS COME TRUEが2005年にリリースしたポップバラードです。
江口洋介 松嶋菜々子が出演した事でも知られるドラマ「救命病棟24時(第3シリーズ)」の主題歌だった事でも有名。
ドリカムの曲の中でも、歌詞の力強さが際立つ曲。
「この先も躓いて傷ついて傷つけて 終わりのないやり場のない怒りさえ もどかしく抱きながら」
「どうしてわからないんだ? 伝わらないんだ? 喘ぎ嘆きながら 自分と戦ってみるよ」
「10000回だめで 望みなくなっても 10001回目は 来る」
世の全ての不条理を無条件に肯定するわけではなく、人から傷つけられるし、傷つけるし、消化しきれない怒りも内心では感じている。
それでも投げ出さなければ、きっといつかは壁を乗り越えていく。
ただ闇雲に前向きな言葉を羅列されるより、こういう「辛い事は沢山あるけど、それでも戦ってみるよ」という歌詞の方が読み手の心の奥に染み渡りますよね。
ある鬱病に悩んでいた人が、ドリカムのこの曲を聴いて癒され、この曲のファンになった、というエピソードがあるように、今まさに上手くいかない事にぶち当たっている人に響く詞ではないでしょうか。
ファンの間で「「がんばれ」という言葉が使われていない応援歌」とも評される歌。
個人的には、吉田美和(Vo)が浅田真央をイメージして書いたといわれるNEWS ZEROのEDテーマ「AGAIN」に匹敵するエネルギーも持つ曲です。
楽曲的にもとても精悍。
この曲は世間的にバラード曲のイメージが強いですが、実は結構アップテンポなんですよね。
入りはしっとりしているのですが、サビメロなどはラップに近いパートすらあり、軽快な要素も強い。
なのに本作がバラードの体を成しているのは、それだけ基本的なメロディが甘美だから。
『何度でも』に限らず「うれしい!たのしい!大好き!」、「その日は必ず来る」もそうですが、ドリカムの作品はどれも、どんなにノリが良くても、旋律に叙情性が含まれているところが魅力的です。
イントロはもの悲しいのに、そこからじわじわとポジティブになっていく曲展開も相まって、まるで曲そのものが1つのドラマになっているよう。
「うたばん」でのファンによる人気投票での1位獲得曲ですが、一般リスナー、ドリカムファン、聴き手を選ばず心を揺さぶる、奥行きの広さをかんじさせる作品です。
苦味も甘さも含まれた明るさのある曲を聴いてみてください。
それでは。
スカイラーク『Welcome』
今日はSkylark『Welcome』を聴いた感想を。
アルバム「Divine Gates part I -Gate Of Hell-」収録。
この曲は、イタリアのパワーメタルバンドSkylarkが1999年に発表したクラシカルメタルです。
一曲の中に、森のように多彩なメロディが詰まった曲。
演奏時間が7分と、Dragon Force並みの長丁場の作品。
なのにファンから「聴いてたら、気が付いたら後半に入ってた」と評されるほど演奏中、常にリスナーに新鮮な刺激を与えつづけつてくれる楽曲です。
前半はパワーメタルに多用される、しっとり系の「序章」的な幕開けパート。
おなじみなようで、クラシカルメタルには重大な場面ですよね。
そこから始まるエディ・アントニーニ (Key)の、高音域でのシンセサイザーの第2イントロ、そしてスラッシーなリフが劇的な抑揚を演出。
スピード感のあるリズムとシンセの絡みはソナタ・アークティカに近いのではないでしょうか。
ソロパートにおいてはチェンバロも導入。
基本的にはクラシック畑の楽器でも、メタル曲に合わせてパワフルな音色での演奏が良いです
アクセントでさりげなく使うというより、キッチリとメロディを作ってメインとして使うところが新鮮ではないでしょうか。
そして個人的に好きなのはファビオ・ドッツォ (Vo)と、女性ゲストボーカリストとのツインボーカル。
ツインと言っても大半は男性ボーカルのファビオが歌っていて、女性ボーカルのパートは短めなのですが。
ファビオのボーカルは熱血というか、たとえば激情をそのままにぶつけていくようなスタイル。
なのに女性の方の歌唱は冷静というか、もはや機械的なまでに淡白なんですよね。
ある意味ボーカロイド以上の平静さかもしれません。笑
わざとそういう歌い方で歌うスタイルなのかは解りませんが、ユニークなのはその2人の冷静と情熱のギャップ。
まるで恋愛映画の熱血主人公とクールなヒロインの対話のようで、独特な味があります。
デビュー当時は演奏力がまだ未熟だった事もあって賛否が激しいバンドでしたが、このコントラストが効いたツインボーカルは唯一無二の個性だと思います。
その後、正式に女性ボーカルのキアラを起用し、ファビオと共に楽曲を盛り上げていく事になりますが、更にその後には惜しまれながらも2人とも脱退。
そのメンバーでの本作のプレイは二度と楽しめませんが、だからこそ残された音源達はその価値を増します。
パワーメタル最盛期の90年代~2000年代前半を支えたバンドの1つである威厳を示してくれる作品ではないでしょうか。
ツインギターならぬツインボーカルが映えるメタルを聴いてみてください。
それでは。
ドッケン『In My Dreams』
今日はDokken『In My Dreams』について。
アルバム「Under Lock and Key」収録。
この曲は、アメリカのHR/HMバンドDokkenが1985年に発表したハードロックです。
コンパクトながら高密度な曲。
非常にメロディックで、アップテンポな疾走曲が取り沙汰されがちなドッケンの作品達の中で、毛色の違う輝きをはなっています。
ドン・ドッケン(Vo)の歌声が、強く伸びやか。
サビでは厚いコーラスが混ざるのですが、そのコーラスの中でも埋もれない、明瞭な存在感を発揮。
後に鼻腔の病気の悪化で、声量と音域にかげりが出てしまいますが、この音源での、最盛期のドンの歌声は本当に艶やか。
現在は、張りの衰えた声色を逆に利用して、中音域でのニヒルな渋みを重視した歌い方にシフトしたようですが、こういう重量感のある作品ではやはり若い時の声の方が相性が良い気がします。
彼の「HR/HMシンガー」感を楽しめる作品です。
そして本作を影から支えるのが細やかなギターテクニック。
リフも正確でタイトなのですが、ジョージ・リンチ(Gt)のギターソロは、キャッチーな歌サビと対をなす、豊潤な美しさを持つメロディです。
タッチング・ハーモニクスの入りから、抑揚の効いたフレージングに進む流れは、ギターだけでも濃密なドラマ性を演出。
ファンから「ギターが生き物のよう」と評されるジョージのプレイですが、それに相応しい劇的な演奏だと思います。
そしてソロパートのメインが、このトリル。
12フレットから20フレットまで駆使したワイドストレッチによるプレイなのですが、それでこの緻密は凄まじい。
単なる速弾きとは一味違う技術が使用されていて、テクニカルの中にもジョージの持ち味が溢れているところがニクいですよね。
ジョージとドンは、よくケンカする事で話題になる2人ですが、その2人のプレイがこれだけ光る作品の中でも、内心はバチバチに火花を散らしていたのかと思うと、少しユニーク。笑
色んな意味で熱く、そしてクールな技巧が楽しめる曲です。
情感的な歌。そしてストレートなようで、小技が効いている構成の楽曲を聴いてみてください。
それでは。
マルーン5『Moves Like Jagger』
今日はMaroon5『Moves Like Jagger』について。
この曲は、アメリカのロックバンドMaroon5が2011年にリリースしたエレクトロ・ポップです。
ビルボード誌ヒット100の1位を記録した上に、世界の18カ国でヒット1位を記録しました。
また、クリスティーナ・アギレラとの共演作としても知られています。
非常に愛嬌に溢れた曲。
タイトルの和訳は「ジャガーのような身振り」ですが、ここでのジャガーはローリング・ストーンズの偉大なボーカリスト、ミック・ジャガーの事。
アダム・レヴィーン(Vo)と、クリスティーナ・アギレラとの
「目をのぞき込んでごらん、そうすれば君は僕のものさ」
「僕は、ミック・ジャガーのような動き、
ミック・ジャガーのような振りを見せるんだ」
「あなたは知りたいんでしょう 一晩アタシを自分のものにする方法を」
「それでもし、アタシの秘密を知ったのなら、
内緒にしておかなきゃダメよ このことは 誰にも見られちゃダメなの」
味とユーモアを兼ね備えた掛け合いが印象的です。
曲自体もとても陽気。
エレクトロ・ポップ特有のデジタルなサウンドなのですが、アップテンポの4つ打ちビートで、シンプル&エキサイティングな仕上がり。
機械音だから表現できるファンタジー感は、むしろとても情感的。
一昔前に流行った「打ち込み音に感情はこもらない」という偏った俗説を、一気に振り払うようなエモーショナルなリズムです。
アダム・レヴィーン(Vo)と、クリスティーナ・アギレラの蠱惑的な声色もさることながら、ユニークなのはイントロの口笛。
口笛で始まるダンス系の曲、という時点で面白いのですが、旋律自体がとても綺麗で、夏に合いそうな爽快感があります。
しとやかな口笛イントロで惹きこんでから、ダンサブルなリズムにのせ、流麗なメロディで魅せる。
若さと、練られた旋律と展開が本作の真骨頂だと思います。
クラブノリなのに、しっかりとメロディで聴かせる曲を聴いてみてください。
それでは。
Dir en grey『残』
今日はDir en grey『残』を聴いた感想を。
シングル「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」のB面収録曲。
この曲は、日本のロックバンドDir en greyが2009年に発表したメタルコアです。
破壊的ながら、質の高さを感じさせる曲。
1999年にリリースされた「残ーZANー」のセルフカバー曲ですが、そちらがややパンクよりな曲調なのに対し、本作はブラックメタルよりの構造。
京(Vo)は「本当は『HYDRA』が『HYDRA-666-』になったくらいに構成自体変えたかった」と言っていますが、もはやテンポ以外オリジナルverの面影はありません。笑
以前薫(Gt)は「Agitated Screams of Maggots」を「Dir en grey最狂の曲」と評していましたが、本作はリズムチェンジパートなど、狂気の中にも、どことなく思慮深さのようなものを感じさせる内容になっています。
曲展開も良いですがサウンドも濃い。
「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」同様、ミキシングをイェンス・ボグレン、マスタリングをテッド・ジェンセンが行っているので、音作りもハイクオリティなのですが、そもそもメンバー自身の奏でる音色がこれまでより迫力を増しています。
特にShinya(Ds)のスネア音の重さには感服。
オリジナル版の「残ーZANー」の頃の彼と比べると倍近い程の音圧で、叩き方のフォームが研ぎ澄まされているのが解ります。
アルバム「Vulgar」の時から叩き方の研究は重ねていたようですが、年齢を重ねるほどパワフルさを増しているところがかっこいいですよね。
そして、やはり京の声。
オリジナルverでは、裏返りかかった声で叫ぶような、「高笑い系」の狂気を表現していましたが、この『残』ではむしろ低い声で唸る、重量感のある狂気が現されています。
この低音で何度も
「Psycho in Fear」 「Psycho in Doom」 「Psycho in Hate」
と繰り返し繰り返し唸られると、段々とまるで別の世界に連れて去られるような感覚に。
そうして時間をかけてリスナーを惹き付けた後に、シメに京の必殺技のホイッスルシャウト。
デスメタル並みの速度ですが、速さに頼らず、あくまで曲展開で魅せる。
元は薫作曲の作品ですが、激しくも緩急のある曲を作る事が得意な彼ららしい曲です。
超攻撃的。そして聴き手を依存させるような魔性を持つコアを聴いてみてください。
それでは。
フェア・ウォーニング『Long Gone』
今日はFair Warning『Long Gone』について。
アルバム「Fair Warning」収録。
この曲は、ドイツのHR/HMバンドFair Warningが1992年に発表したロックバラードです。
洋楽らしさと、らしくなさの共存が魅力的な曲。
ドイツのバンドの楽曲ですが、ジャーマンロックというよりはむしろJ-Rockよりで、あくまで歌で聴かせる作品、といった感じです。
イントロでは物憂げというか、80年代の邦ポップスのような寂しさがあります。
綺麗なのですが、どこか「懐かしさ」があり、聴き手に青春の思い出を連想させるようやノスタルジーが漂う旋律。
一気に感動するというよりは、じんわりと、胸に染み込むようなメロディです。
サビでは、まるで真逆のようにインパクトのある音圧に。
そもそもがハードロックバンドであるフェア・ウォーニングらしく、サウンドは大型車のタイヤのように厚い。
ですが、メロディは優しくて、まるでボン・ジョヴィのバラードを連想させます。
楽曲後半の、トミー・ハート(Vo)の切迫感のあるシャウトは必聴で必殺のパート。
切ないイントロから始まって、明るいサビを通って、とどめに激しく張り叫ぶ、という最高の揺さぶりでリスナーを蕩けさせる構成。
そのシャウトもロブ・ハルフォードのような攻撃的なものというよりは、トミー特有の甘さがあるもの。
この声で
「僕たちの愛が終わってしまうと分かっても
そこにすがることはしなかった」
「理由を探そうとも思わなかった」
「それでも僕たちの過ごした時間は 決して間違っていなかったと思う」
というセンチメンタルな歌詞を歌うのだから、更に味わいが増します。
歌もさることながら、アンディ・マレツェク(Gt)のギターソロも良い。
フェア・ウォーニングというとヘルゲ・エンゲルケ(Gt)のスカイギターが有名ですが、アンディのテクニカルながらトーンの美しいソロもヘルゲとタイプの違う存在感があると思います。
作品自体、かなりロックバラードの教科書のように王道なのですが、それでも個性を感じられるのはメンバーがそれぞれ自分らしい音色でプレイしている所が大きい。
古典的であっても平凡ではない曲です。
鉄の硬さと、羽根の柔らかさを持つバラードを聴いてみてください。
それでは。