グレイト・ホワイト『Lady Red Light』
今日はGreat White『Lady Red Light』について。
アルバム「Once Bitten」収録。
この曲は、アメリカのHR/HMバンドGreat Whiteが1987年に発表したグラムメタルです。
ボーカルとギターの絡みが秀逸な曲。
ハイテンションなジャック・ラッセル(Vo)の歌声と、それについていくような哀愁の漂うマーク・ケンドール(Gt)のブルージーなプレイが、まるでパズルのようにすっきりと噛み合っています。
個人的に好きなのはマーク。
バッキングの際はあまり派手では無いというか、あくまでバンドの顔であるジャックをたてる事に終始している印象。
しかしソロパートに入ると一転。
君子豹変と言わんばかりの弾きまくりプレイが始まります。
良いのはただ激しいのでは無く、弾きまくり中にもこの曲本来の切なさが損なわれていないところ。
速弾きの中でも美しさはキープされ、むしろ音数が多い事で生み出される瀬戸際感のようなものが、楽曲から伝わってくる感情を更に強調してくれています。
そういう流れはこのGreat Whiteの十八番ですが、この『Lady Red Light』はその最たる例ではないでしょうか。
音質的にも最高。
もちろん約30年前の曲なので音の立体感では現在のそれほどではないですが、こういうセンチメンタルな曲調のメタルでは、このどこか懐かしい音色は胸に響くものがあると思います。
当時流行っていた、夏の様な爽やかなLAメタル路線とはまた違った魅力のある曲です。
男らしくも郷愁の香りが漂う曲を聴いてみてください。
それでは。
米津玄師『Loser』
今日は米津玄師『Loser』について。
この曲は、日本のシンガー・ソングライター米津玄師が2016年にリリースしたポップロックです。
Honda「JADE」なCMソングとしても知られています。
ダークな前向きさのある歌詞が印象的な曲。
「いつもどおりの通り独り こんな日々もはや懲り懲り もうどこにも行けやしないのに 夢見ておやすみ」
米津玄師本人いわく、「自分の事を書いた曲」。
辿り着きたい場所はあるのになかなかそこに辿り着く事ができず、ただ一人で作業繰り返し続ける。彼はそんな自分を「負け犬」と称しています。
努力はしていても、現状理想を叶えられず、いつも孤独な葛藤を繰り返す人に響くものがある歌詞ではないでしょうか。
ですが、
「ああわかってるって 深く転がる 俺は負け犬」
「ただどこでもいいから遠くへ行きたいんだ それだけなんだ」
今の自分の敗北を受け入れた上で、それても前に進もう、という意気が表現されています。
ユニークなのは目標が「どこでもいいから遠くへ」と曖昧なものである事。
ここで「最高のアーティストになりたい」と書いていたら、確かにかっこ良くはあるのですが、世間一般から見たら行き過ぎ感というか、自分からはかけ離れ過ぎていて共感を感じにくいところがあるんですよね。
けれどあえて高い目標は定めず「どこでもいいから遠くへ」と歌う事で、世の中の人々の、
「今が苦しくてたまらない。どこでもいいからここじゃない場所に行きたい」
という胸に秘めた願いと共鳴する効果を生み出しています。
自身を鼓舞する応援歌であり、また現状の自分の立ち位置を認識する事ができる、熱くも鋭い歌詞。
情熱的であり達観的でもある、なかなか他ではお目にかかれない世界観の歌詞ではないでしょうか。
もちろん楽曲自体も隙のないクオリティ。
ノリノリながら硬派な音色のギターリフが、インパクトのあるリズム隊。
それが絡み、1つの塊となって聴き手の耳に押し寄せてきます。
ポップス曲としては音数が多い曲ですが、余分な音が少なくとてもタイトです。
抑揚感のある流れの中にも、シビアな味。
ひんやりとした明るさがある楽曲ではないでしょうか。
大人なダンスミュージックを聴いてみてください。
それでは。
ViViD『BLUE』
今日はViViD『BLUE』を聴いた感想を。
この曲は、日本のロックバンドViViDが2011年にリリースしたロックチューンです。
森田成一、折笠富美子、松岡由貴が声優として出演している事でも知られるアニメ「BLEACH」のOPテーマだった事でも有名。
(実写映画盤での主演は、福士蒼汰、杉咲花、真野恵里菜)
ハードで鋭いのに、どこか軽快さが残る雰囲気が魅力的な曲。
BPMはかなり速いですが、メロディ自体は非常にキャッチー。
V系ロックの王道をいくようなスタイルです。
構造をざっくりと言えばミクスチャーロックでしょうか。
アクセント程度にラップパートが導入されていて、オーソドックスの中にもダンサブルな佇まいを楽しめる所が特徴的。
特にひきこまれるのが、メロディが2つあるサビ。
入りは聴き手の聴覚に畳み掛けるような勢いのある流れ。
しかし後半では、まるで木から葉が落ちるようなリズムの情緒的なメロディに様変わりします。
入りで圧倒し、終わりで蕩けさせる。
剛柔併せ持つドライブ感がかっこいい曲です。
この辺りは作曲者のイヴ(Ba)のセンスですよね。
シン(Vo)の綴る
「捻じ曲がる光を浴びて ゆらりゆらり漂いながら」
「ばらばらになった自分の欠片拾い集め飛び立つよ」
と擬態語を多用した歌詞も「日本のバンド」感を体現しているようで風情があります。
捲し立てるようで、そっと語りかけてくるようなメロディの曲を聴いてみてください。
それでは。
ブラック・サバス『Iron Man』
今日はBLACK SABBATH『Iron Man』について。
アルバム「Paranoid」収録。
この曲は、イギリスのHR/HMバンドBLACK SABBATHが1970年発表したドゥームメタルです。
中毒性のある構造が特徴的な曲。
ギーザー・バトラー(Ba)のベースがぐるんぐるん動き回っているのに対し、トニー・アイオミ(Gt)の奏でるギターリフはすぐに覚えられるほどシンプル。
一度耳にするとしばらく頭から離れないキャッチーさを演出しています。
何かをズルズルと引きずるような、心地いい不気味さがある音の動きです。
面白いのは、極端なリズムの緩急。
ゆっくりしたパートと、スラッシュのような疾走パートが使い分けられています。
こういう「スローなリズムから、加速」的な流れは現代メタルでは王道ですが、この当時ではまだHR/HM界では少数派というか、珍しかったんですよね。
後人のメタルミュージシャンに「こういうやり方ももあるんだよ」と最新式の表現法を周知させた功績は非常に大きいと思います。
純粋な楽曲のかっこ良さだけじゃなく「影響力」という観点でも尊いメタルではないでしょうか。
メンバー交代の度に音楽性が変化するサバスですが、その中でも「初期」感のあるクールさが込められた楽曲を聴いてみてください。
それでは。
宇多田ヒカル『初恋』
今日は宇多田ヒカル『初恋』について。
この曲は、日本のシンガー・ソングライター宇多田ヒカルが2018年にリリースしたポップバラードです。
杉咲花、平野紫耀、中川大志、濱田龍臣出演している事でも知られるドラマ「花のち晴れ〜花男 Next Season〜」のイメージソングとしても有名。
宇多田ヒカル自身の変化を感じられる曲。
元々彼女は初期の「Automatic」に見られるように、日本のポップスを基盤にR&Bのリズムを取り入れた楽曲を持ち味にしていたイメージ。
ですがそれが本作では一転。
まるでポップスと民謡とオペラを足して3で割ったような、神秘的で素朴な佇まいの楽曲に成っています。
ビートがすっきりしている分、彼女自身の歌声が際立ち、声で聴かせる「歌モノ」として聴き手を楽しませてくれる曲です。
古参の宇多田ヒカルのファン間では賛否あるのかもしれませんが、個人的には純粋で好きな曲調です。
歌詞は、聴き手の真に迫るような内容。
「どうしようもないことを人のせいにしては」
「受け入れてる振りをしていたんだ ずっと」
インタビューでの宇多田ヒカル自身の発言によると「他者との関わり合いの中で、自分を知ること」をテーマにしている、との事。
『初恋』という、一般的には青春というか若さすら感じるタイトルの曲に、
「その感情を通して、自分の振る舞いを俯瞰して見る事ができた」
とある種哲学的に大人びたメッセージを込める所が面白い。
宇多田ヒカルの代表作のひとつの「First Love」も直訳は「初恋」。
ですが、切なさを感じられる「First Love」とは別にその切なささえ成長の為の糧にしよう、という強さのようなものが込められたバラードだと思います。
しなやかで力強い想いが込められた曲を聴いてみてください。
それでは。
田所あずさ『DEAREST DROP』
今日は田所あずさ『DEAREST DROP』を聴いた感想を。
この曲は日本の声優兼歌手、田所あずさが2017年にリリースしたポップロックです。
田所あずさ本人、新井良平、井上喜久子が声優として出演している事でも知られるアニメ「終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?」のOPテーマとしても有名。
「何回目の明日が来るのか わからない夜なら名前を呼ばれたい」
「だって胸が痛い 痛くて張り裂けそうだ」
間もなく戦争で命を失う事になっているヒロインの、愛する人への切実なメッセージが込められたこの曲は、スピーディなのギターにのる悲しげなメロディが美しい曲。
サウンド自体はポップスよりですが、ドライブ感のある音の動きがHRに近く、聴き手の耳にズンズンと迫る圧力を放っています。
髭白健のドラムもドカドカと大暴れ。
それでいてバックで鳴る名ヴァイオリニスト室屋光一郎の繊細なストリングス、そして何より歌い手の田所あずさ(Vo)の健気な歌声が叙情的で、激しい演奏陣と好対称を演出。
田所あずさの、A~Bメロでの早口でまくし立てるような歌い方と、サビでのバラード曲のような伸びやかな歌声の使い分けが巧み。
そもそも歌声自体から強い感情が表れていて、田所あずさの表現力を感じる事ができる内容です。
このアップテンポで、この儚さを表現するのは凄いのではないでしょうか。
本作のクオリティの高さは、もちろん演奏陣の優秀さもあるでしょうが、プロデュース担当が斎藤滋というのも大きいのかな、と思います。
基本的には涼宮ハルヒの憂鬱、ラブライブ!、未来日記などのアニメプロデューサーとしての印象が強い彼ですが、一方で奥井雅美、茅原実里、ヒャダインのプロデュースを勤めた事もある音楽プロデューサーの一面も。
異なるジャンルのプロデューサーを兼任して、その両方で成功を納めた日本屈指のクリエイターが力を注いだ訳ですから、良い曲にならない訳も無いんですよね。
非常に切れ味が鋭いリズムなのに、それが逆に歌詞とメロディに込められた無力感と切望を強調している素晴しいロックではないでしょうか。
空しさと、強い願いが込められた曲を聴いてみてください。
それでは。
オジー・オズボーン『Mr. Crowley』
今日はOzzy Osbourne『Mr. Crowley』について。
アルバム「Blizzard of Ozz (邦題:ブリザード・オブ・オズ〜血塗られた英雄伝説)」収録。
この曲は、イングランドのHR/HMミュージシャンOzzy Osbourneが1980年に発表したヘヴィメタルです。
ランディ・ローズ(Gt)のギターが大活躍する曲。
激しいのですが品があり、荒々しいようですみずみまで整えられたメロディが特徴的。
ペンタトニックスケールの多用など王道な面もあながら、当時としては数少ない横方向に動くフィンガリングの導入など、稀少な技術が使用されていてユニークです。
そもそもこの時代アグレッシブながら繊細な、こういうネオクラシカルメタルなプレイをしていた人自体が珍しいかったんですよね。
この後イングヴェイ・マルムスティーンがデビューしてからネオクラシカルは一気にメタル界のメジャーなジャンルに出世していきますが、まだマイナージャンルだったこの曲調に到達したのは凄い。
メタル界の歴史的にも意義のある曲ではないでしょうか。
(ちなみにそのイングヴェイ・マルムスティーンは本作をカバーした事があります。)
しかし、メインメンバーのオジー・オズボーン(Vo)も負けない存在感を放っています。
オジーの個性とも言える、ややゆるい発音ながら男らしいが楽曲のメタル成分を濃密に。
こういう綺麗な曲調に綺麗な発音の歌声をのせるとHR/HM曲としては激しさに欠けがちですが、あえてオジーのような退廃系の歌声をのせる事で、曲の均整がとれているように感じます。
HR/HM界屈指の個性派ボーカルとして知られるオジーですが「この味を出せるのはオジーだけ」と多くのメタルファンに思わせる事ができるのが彼の強さ。
ギター&ボーカルの異なる個性のぶつかり合いが本作の真骨頂ではないでしょうか。
独創的で「泣き」のメロディまで楽しめる楽曲を聴いてみてください。
それでは。