スピッツ『渚』
今日はスピッツ『渚』について。
この曲は日本のロックバンド、スピッツが1996年にリリースしたポップロックです。
﨑山龍男(Ds)のドラムが凄まじい曲。
ファンの間では「ドラム音がリフ」と評される程メロディックなビートで、本作の中枢を成していると言っても過言では無い存在感を発揮しています。
特に良い所が、後半に進むにつれて音数がどんどん増えていくところ。
Aメロではシンバルとバスドラのみ使用したプレイで、静寂感を演出。
しかしBメロに入ると、満を持してスネア音が出現。
全体的に手数が増えていって、グルーヴに厚みが増していきます。
ドラム音でここまでのストーリー性を表現できるのは凄い。
なぜこういう構成にしたかというと、おそらくですがタイトルの『渚』。
『渚』とは「波打ち際」という意味があり、この退いたかと思えば次には押し返してくるようなリズムのビートは、まるで渚の波を連想させます。
そもそも『渚』のタイトルの由来は、歌詞の内容が
「ささやく冗談で いつもつながりを信じていた」
「ねじ曲げた思い出も 捨てられず生きてきた ギリギリ妄想だけで 君と」
など、おそらく
「実際に告白して付き合うまではできなかったけど、きっと両想いだったんだと信じたい」
と希望的観測を抱いている主人公の心境。
要は
「きっと相思相愛だったんだ」
と希望を抱いている気持ちと、
「でもそれは、ただの自分にとって都合の良い思い込みなんだろうな」
とネガティブに思う気持ちが、まるで陸でも海でもない「渚(波打ち際)」のようだと例えて生み出されたものだからなんですよね。(あくまで多分ですが)
そんな主人公のジレンマを、ドラムのリズムの濃淡でここまで表現できる﨑山龍男のドラミングには、一種のボーカルメロディのような歌心さえ感じます。
ふつう、一般のドラマーならこういうポップス系のドラムはもっとおとなしいリズムを刻むもの。
ただし﨑山龍男は、学生時代は、ヘヴィーメタルバンドのメンバー。
また、影響を受けたドラマーにLOUDNESSの樋口宗孝を挙げたりと、実はルーツにヘヴィーメタルを持つドラマー。
きっとそのキャリアがこの多彩な音数のドラムテクニックを作りあげたのだと思いますが、草野正宗(Vo)の透明感のある歌声と相まって、複数のメロディが折り重なって、一曲の中にいくつものメロディが溶け合ったような重厚な構造の曲になっていると思います。
スピッツメンバー全員がメインメロディ担当と言うべきスケールが本作の持ち味です。
軽やかなヘヴィさを持つ曲を聴いてみてください。
それでは。