音の日

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Dir en grey『The World of Mercy』

今日はDir en grey『The World of Mercy』について。


この曲は、日本のロックバンドDir en greyが2019年にリリースしたロックチューンです。

読みは「ザ・ワールド・オブ・マーシー」。



演奏時間10分を越える大作。

前作、前々作のシングル「詩踏み」と「人間を被る」は、演奏時間3分少しのコンパクトな曲。

その為、また短い曲を作ると「自分たちの中でシングルの定義を作ってしまう」という事で、京(Vo)が「長い曲をやろう」と提案して生み出された曲との事。

彼らの、常に「これまでの自分たちとは違う事をする」という姿勢を持ち続けられる所は、今の日本アーティストには本当に希少な部分ですよね。


ただ、この曲の凄いと思う所は、むしろ楽曲の中での変化の少なさ。

大作という意味では、以前の「VINUSHKA」など先例はあるのですが、一部疾走パートはあるにしても、「VINUSHKA」と比べるとあまり大きな抑揚は無く、全体的に似た展開が繰り返されていきます。

にも関わらす、何故か不思議と飽きない。

似たメロディを長い時間聴かされる事で、この作品の持つ空気感、美しい退廃感がリスナーの脳髄に刻み込まれていくような感覚を味わえます。

普通こういう大作系の作品は、もっと大きな振り幅で起伏をつけて、映画のようなストーリー性を表現するのがロック界の通例ですが、今回はあえて中性的にまとめたそう。

Die(Gt)が「長い曲を作るって難しいんですよ。静と動は付けないとダメだよね、って思うんですけど、そうすると、どうしても同じような展開になってしまう。」

と語るように、本来大作だからこそのパターンというものはロック界にはありがちなんですけれど、ディルはあえてその逆をいく。

Toshiya(Ba)いわく「波を出したいんですけど、それを殺しているというか。ひたすら霧の中にいるような感じ」。

フラットな展開で進める事が、逆に突き抜けたインパクトを生む事があるという、面白い例を示した曲です。


そして京の歌詞も明敏。

「誰が知る?本当の私 本当の心」
「誰が見る?本当の私 抉れた心えづく」
「仲間に入れて?」

PVでは登場人物が学校内で陰湿ないじめにあう内容になっていますが、そのPVは歌詞の内容に関連したものとの事。

周囲から排除される事を怖れて、大衆に溶けこみたいと願う心境が綴られています。

けれど登場人物は、最後には耐えきれず命を絶ってしまう。

「死骸へようこそ」
「変わる時が来た」

「無様でもいい 血を流せ」
「 お前は生きてる」
「お前の自由を探せ」

実際には亡くなっているんですけれど、彼は抑圧から解放され、その時だけは「自分の人生を生きた」瞬間が訪れる。

「THE FINAL」と詞にも通じる事ですが、普通ならネガティブに響く「終わる」瞬間を、あくまで次のポジティブに繋がる入口のように描くスタイルは独特。

普段からライブ音源をシングルのB面に収録する時も、あえて演奏の調子が良くない日のプレイを収録したり、彼ら特有のかっこいい「右と言えば左」感
が溢れた曲。

楽曲、歌詞ともに綺麗な天の邪鬼さが表れている作品です。


一見、平坦なようで、濃厚なエモーションに満ちた曲を聴いてみてください。



それでは。