Neru feat.鏡音リン『ロストワンの号哭』
今日はNeru feat.鏡音リン『ロストワンの号哭』を聴いた感想を。
アルバム「世界征服 」収録。
この曲は、日本のNeruが2013年に発表したオルナナティブ・ロックです。
とても軽快で、悲痛な曲。
曲調はハイスパートでエネルギッシュなのに、陰鬱ともとれる歌詞の二項対立が印象的です。
演奏には有名ボーカロイド「鏡音リン」が使用されているので歌声は可愛らしいのですが、歌われている歌詞自体は読み手のお腹にズシリとのしかかるようなヘヴィな内容。
「昨日の宿題は相変わらず解けないや 過不足無い 不自由無い 最近に生きていて」
「でもどうして僕達の胸元の塊は “消えたい”って言うんだ “死にたい”って言うんだ」
元々タイトルの「ロストワン」という言葉の意味自体
「本来は人並み以上に豊かな感受性を持っているのに、家族や周囲の人から注目されたり傷付けられたりする事を恐れ、自己主張を抑え込んでいる人」
という内容。
「自分を抑え込む事」自体は、社会に出れば大多数の人が体験する事ですが、ロストワンの人の特徴は、幼少期から家族に対してまでそうである事。
家に帰って家族に会えば、誰でもある程度家族とは腹を割って話ができるものでしょうが、彼らは家族相手でさえ主張を抑え込むため、まるで安息の場が無いそう。
心が窒息してしまいそうな状態なわけですね。
ただラストに進むと流れが変わります。
「面積比の公式言えますか 子供の時の夢は言えますか」
「その夢すら溝に捨てたのは おい誰なんだよ もう知ってんだろ」
「いつになりゃ大人になれますか そもそも大人とは一体全体何ですか」
「どなたに伺えばいいんですか おいどうすんだよ もうどうだっていいや」
散々悩み抜いた上で、最後には「もうどうだっていいや」と結論を投げ出してしまいます。
他アーティストの歌詞でも、始めはネガティブで後半にポジティブになる詞、始めから終わりまでネガティブな詞などはあると思います。
しかし最後にそもそも「結論を出さない」という構成な歌詞は珍しいのではないでしょうか。
一見すると「個性的」な歌詞ですが、しかしそもそも世間の大多数の人達は、自分の思想、人生観に対して、明確な結論なんて出していないんですよね。
それは「考えるのが面倒」という思いもあるのでしょうが、一方で「考えない間は不安にならずに済む」という思いもあると思います。
作詞・作曲者のNeruにそういう意図があったのかは解りませんが、「もうどうだっていいや」という通常ならネガティブに使われる言葉を、「辛いなら無理に考えなくても良いんだよ」という独特なポジティブさに昇華している所が斬新。
「ボカロ カラオケリクエストランキング」でTOP5に入る人気曲ですが、それは世間の人がこの曲の主人公と共に、自分の胸の内に抱えた空しさ寂しさを吐き出したい、と思っているからかもしれませんね。
それぞれの理由で閉塞感を感じている現代人には響くものがある歌だと思います。
歌詞の方はシビアですが、曲の方は前述の通りむしろ朗らか。
ハイテンションなリズムと覚えやすいメロディ。
特に歌メロのサビはほぼ同じメロディの繰り返しで、スッと耳に入りやすい構造になっています。
歌詞が難解なぶん、曲の方は親しみやすい方良い、という意図があったのかもしれませんが、個人的にもこれ位の配分の方が好き。
エキサイティングでナイーブでもある曲です。
寂しくて息苦しい、なのに青春の「足掻き」を感じさせてくれる曲を聴いてみてください。
それでは。