T.M.Revolution『Master Feel Sad』
今日はT.M.Revolution『Master Feel Sad』を聴いた感想を。
アルバム「progress」収録。
この曲は、日本の音楽プロジェクトT.M.Revolutionが、2000年に発表したロックチューンです。
T.M.Revolutionでは、最もHR/HM色が強い曲。
曲名自体モトリー・クルー「Dr.Feelgood」をモデルにしたという話がありますが、実際80年代メタルを連想させる豪快なようで退廃的な、「メタルっぽい」というより、本格派LAメタルの香りが漂います。
本作がT.M.Revolutionの作品の中では特殊なのは、ボーカルメロディがキャッチーじゃない事。
基本的にT.M.Revolutionの楽曲は、非常に速いリズムに親しみやすいメロディをのせる、という仕組みの曲が多いイメージ。
ですがこの『Master Feel Sad』は、あまりキャッチーさ重視じゃなく、早口でまくしたてまくる、破壊力重視のような攻撃性を感じます。
作曲者としての浅倉大介にこんな一面があったとは、と思わせる作風です。
そして凄いのは西川貴教のボーカルプレイ。
ミドルボイスでの最高音がhiD、フェイクに至ってはなんとhiG#。
ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォード、プライマル・フィアのラルフ・シーパースに匹敵するハイトーン・シャウト。
日本のメジャーシーンでこの叫びは稀な領域。
よく「発声の基礎が身に付いている人は、声量も増えるし声域も自然に拡がる」とは言いますが、声量オバケの異名をとり、声域も広い彼はおそらく基本的な発声のテクニックから段違いなんでしょうね。
作風的にはT.M.Revolutionの中では風変わり。
けれど歌い手の西川貴教の歌唱は王道的ハイテクニック。
何を歌っても骨太な芯を通してくれる歌手である事を知らせてくれる作品です。
普段のデジロックとも一味違いながらも違わないT.M.Revolutionを楽しんでください。
それでは。
スレイヤー『NECROPHOBIC』
今日はSlayer「NECROPHOBIC」について。
アルバム「Reign in Blood」収録。
この曲は、アメリカのHR/HMバンドSlayerが1986年に発表したスラッシュメタルです。
BPM240超。
スレイヤー最速の曲。
「NECROPHOBIC(死体恐怖症)」のタイトルが示す通り、スラッシュの極地というべきスリリングな雰囲気で聴き手にプレッシャーを与えていきます。
デイヴ・ロンバード(Ds) のドラムが凄い。
スピードもさることながら、音が非常に太いです。
「速いドラミングは、その分音圧が軽くなってしまう」というのがドラムの一般原則ですが、その定説を嘲笑うようなショット。
デイヴの超人ぶりを堪能できるプレイです。
そして本作の心臓部はリフ。
ただでさえ並のデスメタルを凌ぐスピードなのに、これをオルタテネイトビッキングで演奏。
後に後世のデスメタルに多大な影響を与えたプレイですが、勢いだけじゃなく、熟成されたテクニックを感じられるところが良い。
彼らが生み出したスラッシュ界の至宝「Angel of Death」で見られたような、急なテンポダウン、その後は逆にスピードアップという緩急のついた展開が、そのリフの疾走感を倍増させてくれています。
そのあまりのスピードぶりからか、演奏時間がたったの1分40秒という、演奏の速さも終わりの早さも疾風のような曲ですが、その短さが、この音の量でもクドさ感じさせない秘訣。
この音の数、速さで長時間の演奏されたら聴き手の耳が疲れてしまうかもしれません。笑
作曲者のケリー・キング(Gt)とジェフ・ハイネマン(Gt)がそこまで計算して作ったのかは解りませんが、「殺気と聴きやすさが共存」という、面白い個性を持ったスラッシュです。
凶暴さが売りと見せかけて、精密に作り込まれたハイクラスの楽曲を聴いてみてください。
それでは。
テイラー・スウィフト『You Need to Calm Down』
今日はTaylor Swift『You Need to Calm Down』について。
この曲は、アメリカのシンガー・ソングライターTaylor Swiftが2019年にリリースしたポップバラードです。
棘のある歌詞とフランクな曲調のギャップが素晴らしい曲。
歌詞は実に痛烈。
「たまには落ち着いて一呼吸するのも大事よ そして平和をとり戻すの」
「あなたが嫌いな全ての人について叫びたくなるような衝動をコントロールするの」
風刺と、公平への愛がないまぜになったような内容で、いわゆる社会派メッセージソングになっています。
元々、以前テイラー自身が起こした、「同性愛者の平等」を促す訴えが、下院議会を通ったことを受け、「この勢いのまま上院にも通せるかもしれない」という目論見のもとに書いた歌詞だそうですが、世間からは賛否くると予想してて、それでもこういう歌詞を書けるパワーが凄い。
まぁ実際同じ歌詞の中で、同性愛者を差別する人達を批判したメッセージだけではなく、ネット上で自分の悪口を書く人をも共に非難したメッセージも綴られている為、
「同性愛者差別の問題と、ネット上の自分への中傷の事案を一緒くたにしているのは、不謹慎ではないか」
という批判が届いているようですが、色んな意味でテイラーの正直さが伝わってくる曲。
レディー・ガガの「Born This Way」といい、こういうデリケートなテーマの曲を遠慮なく出せるのは、アメリカアーティストのパワーですよね。
よく話題になる歌詞もさることながら、個人的に好きなのは曲。
ポップスをベースに、ヒップホップとR&Bを巧みに織り込んでいて、現在のテイラーの十八番というべき作風になっています。
この流れ自体、以前の「レピュテーション
」から始まったイメージがありますが、その時に感じた「新しい事に対する挑戦心」よりも、すっかり「使いこなした」熟練感が強調されている所が印象的。
A~Bメロでは、シンセベースを基盤にリスナーを引き寄せ、ノせる。
そしてサビでは一気にメロディアス路線に様変わり。
変化はっきりしていますが、つなぎがナチュラルな為、あざとさや不自然な感じがしないところが良い。
聴き手側からすれば解りにくい事ですが、抑揚がある展開を、わざとらしさなく作る、というのは作り手側からすれば難しい部分。
歌詞にはスパイスが効いているのに、曲は明るくそれでいてスムーズ。
まだ20代のアーティストの作品とは思えない、二律背反の配分が整った楽曲です。
辛口の歌詞と、マイルドな楽曲のコントラストを楽しんでください。
それでは。
ラウドネス『Firestorm』
今日はLOUDNESS『Firestorm』を聴いた感想を。
アルバム「LOUDNESS」収録。
この曲は、日本のHR/HMバンドLOUDNESSが1992年に発表した王道へヴィメタルです。
LOUDNESS屈指の高速ナンバー。
重さ、疾走感は海外HR/HMバンドの上位クラスに匹敵するほどで、それに日本語の歌詞がのる、というユニークな癖のある曲という事で、邦メタルファンの間で話題になります。
入りがドゥームメタル的リズムで、かなりゆっくり始まるのですが、そこから樋口宗孝(Ds)の爆撃のようなパワーでの連打が入り、そこからはスラッシュのレベルのハイスパートになだれ込む。
樋口得意の2ビートが、従来以上の速さで前進して、楽曲の土台を突風の速さで構築していきます。
凄いのは、この疾走感をワンバスで生み出している事。
樋口と言えば他ドラマーなら2バスで刻むスピードのリズムでも、バスドラムとフロアタムのコンビネーションで刻むほど、ワンバスにこだわりを持つドラマー。
昔レッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムの影響で、ワンバスの高速ドラマーが増えた時期がありますが、それをこの次元まで突き詰められるドラマーは珍しいと思います。
純粋なスピードで言えばテロライザー時代のピート・サンドヴァルなど凄まじいドラマーは他にもいますが、本作のプレイは1音1音のトーン、音色の厚みなど樋口ならではの濃厚さが表れていて、彼のドラマーとしての真骨頂が体現されたドラミング。
あのXJAPANのYOSHIKIから「ワンバスにこだわった素晴らしいドラマー」と評されるほどの樋口の凄さを解りやすく感じるには、これが最適の音源ではないでしょうか。(ちなみにこの曲では、元XJAPANのベーシストTAIJI( 沢田泰司(Ba))も参加。)
また良いのが山田雅樹(Vo)のボーカル。
非常に強力なシャウト声。
聴き手に、日本人にこんな声が出せる人がいるんだと思わせるほどの本格派メタルボイスです。
二井原実のキレキレのハイトーンボイスもかっこいいですが、山田雅樹の、まるで野獣が獲物を威嚇するようなワイルドな声は、スラッシーなこの曲にあつらえたようにフィット。
基本的にラウドネスの曲はメタルながらも歌メロは邦ポップスな作品も多いのですが、この『Firestorm』はそんなにキャッチーでもなくむしろシンプル。
まるでブルータルのようで、「よくメジャーシーンでこれをリリースしたな」と思わせてくれる熱を感じさせてくれます。
彼らのアーティストとしての姿勢、反骨精神が伝わっくるボーカルプレイです。
日本で稀有な、正統派ヘヴィメタルを聴いてみてください。
それでは。
インペリテリ『Beware of the Devil』
今日はImpellitteri『Beware of the Devil』について。
アルバム「Crunch」収録。
この曲は、アメリカのHR/HMバンドImpellitteri2000年に発表したパワーメタルです。
インペリテリの中ではやや異色の曲。
これまでは、テンポが速い以外は正統派なメタルを演奏するイメージでしたが、抑揚のある展開、クワイアの導入など、彼らにしては珍しいパワーメタル的な曲構造になっています。
ただでさえロブ・ロック(Vo)の声は雄々しいメタルの模範的な声なのに、サビのバックでこのクワイアが重なる事で、熱量が倍々式に増加。
ロブの声は合唱と相性が良いという、意外な発見です。
印象的なのがジェイムス・アメリオ・プーリ(Ba)のベースライン。
一般HR/HMのシンプル&スピーディーなベースラインと比較して、かなりのムーブというか、アルペジオ的。
プログレほど細かいわけではないですが、幾何学的なリズムで、一度聴くとしばらく耳に残り続けるメロディ。
ジャズ系のベーシストはアルペジオはあまり使わないそうですが、こういうベースが聴けるのは、ロックならではの楽しみと言えるのではないでしょうか。
そして重要なのは、やはりクリス・インペリテリ(Gt)の稲妻のようなギター。
ソロでのタッピング+スイープ→光速フルピッキング、という技術のデパートなのは相変わらずですが、本作は音自体が凄くヘヴィなんですよね。
基盤であるリフのサウンドも重く大迫力の為、体感速度は並のスピードメタルを凌ぎます。
噂では、クリスはこの曲では変則チューニングを行ったらしく、それが原因かもしれませんが、音色の時点でインペリテリの他の名曲とは趣向が違うテイストを味わえる音作りになっています。
クリスというと、どうしてもスピードプレイばかりが取り沙汰されがちですが、この人は速いから魅力的なのでは無く、基本のサウンド作りから熱心で、技数豊富で、そしてその上で速いから名手と呼ばれるんですよね。
スピードで押すだけじゃない、厚みのあるプレイヤーだという事を感じられる作品です。
ファンから「インペリテリの新たな風」と呼ばれた曲を聴いてみてください。
それでは。
パール・ジャム『Once』
今日はPearl Jam『Once』について。
アルバム「TEN」収録。
この曲は、アメリカのロックバンドPearl Jamが1991年に発表したグランジ・ロックです。
二面性がかっこいい曲。
グランジというにはハード、メタルというにはややマイルドな、ピンポイントで隙間を縫うような激しさで、破壊力と軽快さを兼ね備えた爽快感があります。
静かなイントロからギターが入る、というロックの王道展開ですが、入るのが「ちょうどここに欲しい」といい最高のタイミングの為、絶妙なフィット感を演出しています。
ストーン・ゴッサード(Gt)の奏でるリフも、スタイリッシュ。
疾走感もあるのですが、うねりもあって男らしい野性的圧力を放っています。
男らしいと言えば、エディ・ヴェダー(Vo)の声質も凄い。
たとえは70年代のザ・メタルボーカルのような荒々しい声、太さ。
全打席フルスイングみたいなもので、押しが強すぎて好き嫌いはあるかもしれませんが、他のどんなに歌の上手い歌手が歌ってもこの味は出せないだろう、と思わせる濃密なエネルギー量を放出。
中音域主体で歌うグラハム・ボネットのようないう熱さで、メタルの古典的なかっこ良さを求める人には、思い切りフィットする声ではないでしょうか。
そして、さりげにキレが良いのがマイク・マクレディ(Gt)のギターソロ。
伝統的なメロディなのですが、音の運び方、とても的確な濃度のワウがかけられていて、硬派な曲調にそっと色をつけています。
基本的には荒っぽい楽曲でも、どことなくカラフルに聴こえるのは、この艶のあるソロの要素が大きい。
あまりメロディックだとグランジのパンチ力が薄くなり、かと言って攻撃的なだけだと、どこかチープになってしまう。
オルタナ的かっこよさを保ちながら、古き良きHR/HMのようにソロで魅せる。
グランジ自体は、HR/HMと比較すればやや新しいジャンルですが、古参のHR/HMファンの鑑賞にも耐えうるレトロさが香るところが本作の芯。
綺麗なビンテージ感と、細やかな飾りが楽しめる曲です。
猪突猛進の中にもフックがあるグランジを聴いてみてください。
それでは。
イングヴェイ・マルムスティーン『Far Beyond The Sun』
今日はYngwie Malmsteen『Far Beyond The Sun』を聴いた感想を。
アルバム「Rising Force」収録。
この曲は、スウェーデンのHR/HMアーティストYngwie Malmsteenが1984年に発表したネオクラシカルメタル・インストゥルメンタルです。
メタル・インストに求められるモノの全てが揃った曲。
テクニカルでドラマティックで、何よりメロディが綺麗で。
ファンタジックなヴァン・ヘイレンの「イラプシャン」。
荘厳なジューダス・プリーストの「ザ・ヘリオン」。
HR/HMには優れたインスト曲がいくつかありますが、そのどれとも毛色の違う、インギーならではの「華」を感じられる構造になっています。
ファンの間では「3連のベートーベン」と形容される事もある作品ですが、イントロの時点でベートーベンからのインスパイアかと思われるフレーズがあり、インギーのセンスの根元はクラシックにある事を思い出させてくれます。
そしてそこからは弾きまくり。
クラシックの弦楽器隊を思わせる音運びで、スピーディーですが品格を感じられる音色。
イングヴェイといえば、指を怪我する前は、技巧だけじゃなく運指の滑らかさでも話題になりましたが、「王者」のフィンガリングを存分に堪能できる作品になっています。
途中で入るイェンス・ヨハンソン(Key)とのバトルは必聴。
インギーも鬼テクミュージシャンですが、フュージョンもプレイする超絶技巧キーボティストのイェンスのスキルは、そのインギーと比較しても決して見劣りしません。
イングヴェイのもとを離れた後は、その腕を見込まれディオ、ストラトヴァリウスなど大物バンドへの加入を繰り返す事になるのですが、テクニックもメロディセンスも一流のミュージシャン同士のソロバトルは、本当に壮大。
やはりメタル曲は、スケールの大きさも大切ですよね。
そして最後のトリを飾るのは、イングヴェイの奏でるブロークン・コード。
速弾き、キーボードとのバトルを経て、最後の締めでこれは雄渾。
クリス・インペリテリ、マイケル・アンジェロ、素晴らしい速弾き系ギタリストはメタル界には沢山いますが、ここまで速く壮麗なギターを弾く人は希少だと思います。
現在ではテクニカルなギターを弾く事よりも、メロディアスなギターを弾く事にこだわっている彼ですが、メロディアスで尚且つ速い本作は、初期の彼だからこその良さが溢れている作品です。
ネオクラシカルメタルを、最も広く世界に知らしめたアーティストの凄まじさを堪能できる楽曲ではないでしょうか。
発表から35年以上たった現在でも、メタル・インストの最高峰と呼ばれる曲を聴いてみてください。
それでは。