音の日

好きな音楽、その他趣味のこと

ニルヴァーナ『Breed』

今日はNirvana『Breed』を聴いた感想を。


アルバム「Nevermind」収録。

この曲は、アメリカのロックバンドNirvanaが1991年に発表したグランジロックです。


奇抜なスピード感が魅力的な曲。

実際のテンポ自体はデス、スラッシュほどではないのですが「ドゥルルル、ドゥルルル」っと心理的な速さあるリフで、聴き手のテンションにダイレクトに迫っていきます。

進行も、ほぼ同じような流れで進んでいく為、長時間聴いていると脳髄の奥までメロディが浸透してくるような錯覚に陥ります。

ファンの間でも「中毒性が凄い」と評されるのは、この“繰り返し系”のリフの要素が大きいのではないでしょうか。


リフもさることながら、秀逸なのは展開。

ギター→ドラム→ベース、と順番に入っていく流れで、「くるぞ、くるぞ」という心地よい切迫感を演出。

特にドカドカと叩きまくるデイヴ・グロール(Ds)ドラミングは爽快。

勢いもあるのですが、激しいだけじゃなく歌心もあり、ともすればノリ任せになりがちなグランジに味わいをのせています。

「前に出るドラミング」の良いところですよね。


そして面白いのはカート・コバーン(Vo.Gt.)の歌い方。

わざとだとは思いますが、やや覇気の無い、あまり元気いっぱい、という感じじゃない歌唱法で、エキサイティングなバッキングと良い意味でミスマッチ。

ぼんやりとした歌声なのに、不思議な太さ、力強さがあり、歌声にドッシリとした説得力を持たせています。


日本でも、アンニュイなのにパワフルな歌声の持ち主「清春」がいますが、彼ともまた少し違うテイストの儚く強い声のボーカル。


『「私達なら素敵な家庭を作れるわ」』
『「私達なら庭に木を植えて子供を遊ばせられる」』

「逃げ出してしまいたい」

「君が求める事の意味が分からない 見つめても分からないよ」

歌詞の内容は「作詞者のカート・コバーンが暖かい家庭にあこがれつつも、それと同じぐらい、いつかそれを失う恐怖も抱えている」というものですが、その理想を求める強い心と「けれどそんな尊いもの、自分に手に入れられるわけがない」という虚しい想いを一息に表現するのに、とても適した声質。

カート自身、7歳のときに両親が離婚し、それが強いトラウマになっているなっているそうなので、それも1つのリアリティーを生んでいる要因なのかもしれません。

サウンドも、作品に込められた意味も、両方が重厚な曲です。

退廃的な疾走感、という新たなアプローチを開拓した作品を聴いてみてください。



それでは。





ザ・ダークネス『Black Shuck』

今日はThe Darkness「Black Shuck」について。


アルバム「Permission to Land」収録。

この曲は、イングランドHR/HMバンドThe Darknessが2003年に発表したハードロックです。


リフと歌声のギャップが魅力的な曲。

ギターリフは相変わらずの70年代のHR/HMを連想させる、グイグイ押しまくるドライブ感のあるリフ。

ハードなのですが、聴きながら思わず体をテンポに合わせたくなるリズムがクールです。

オーソドックスなのですが明るく太い音色は、ハードロック界の老舗AC/DCを連想させます。

朗らかなのですが野放図ではない、大人の渋みのあるリフではないでしょうか。


そしてその硬派なリフと対極を成す、ジャスティン・ホーキンス(Vo)の代名詞、ヨーデル風ファルセット。

個性+実力を兼ね備えた、濃い味の歌唱ですが、このストレートな楽曲が個性的な輝きを放つ理由は彼の存在が大きいです。

裏返っていますが声に芯がある為、バック演奏の圧力に負かされる事もありません。

特に凄いのが、ギターソロ直前に入る超絶シャウト。

ヤスリで何かを一気に削り取るような声で、さっきまで柔らかな声を出していた歌手と同一人物とは思えないインパクトを発揮しています。

滑らかな地声、独創的な裏声、そして一度聴いたら忘れられないパワーを持つ叫び声。

アメリカにも裏声、スキャットデスボイスなど様々な声色を使い分ける7色の声色を使い分けるボーカリストマイク・パットンがいますが、それとは少し違う意味で多様な声を楽しめる楽曲ではないでしょうか。

実はエアロスミスジョー・ペリーが「好きな曲ランキングBest10」に入れていた曲でもあります。

エアロ自身も多様な声、音色、ジャンルをプレイするバンドですが、スケールの大きなジャンルわを演奏するアーティスト同士、何か通じあうものがあるのかもしれませんね。

シンプルなのに、一度ハマるとへヴィローテーション間違いなしのスルメソングを聴いてみてください。



それでは。





リンキン・パーク『In the End』

今日はLinkin Park『In the End』について。


アルバム「Hybrid Theory」収録。

この曲は、アメリカのオルタナティヴ・ロックバンドLinkin Parkが2000年に発表したラップロックです。


ド迫力にアンニュイな曲。

サビでは、バックでへヴィメタル並みに重いギターが鳴るのに、歌メロは哀しく叫ぶような雰囲気で、独特な退廃感を演出しています。

マイク・シノダ(Vo.MC)のラップも、低く呟くような音程で、一般的なアメリカのダンサブルなラップとは違うもの。

バックのひんやりとしたピアノ+ラップの組み合わせはエミネムの生み出した名曲「Lose Yourself」を連想させます。


個人的にこの曲のメインは、リードボーカルチェスター・ベニントン(Vo)の書いた歌詞。

「君は僕を羽交い絞めにしていらだたせた」
 「僕を所有物だと思わせて」

「だがこれだけは忘れるな」
「信頼しきってたから 僕はできる限り必死で頑張ったんだ」

心を開いていた相手から、裏切られ失意のどん底に沈んだ想いが綴られています。
 
相手は恋人なのが家族なのか、あるいは下積み時代のファンを暗喩表現したものなのかは解りませんが、骨太なサウンドとはあまりに落差のある悲痛なメッセージ。

ゴリゴリのミクスチャーロックにナイーブな歌詞をのせる、というコンセプトはどことなく日本のDir en greyを連想します。

この2バンドは約10年前に、さいたまスーバーアリーナで競演した事でも知られますが、競演相手にディルが選ばれたのは、主催者がこの2バンドに少し似た世界観を感じたからかもしれませんね。


ただ、ネガティブでは終わらないのもこの曲。

「俺は全てを胸へしまいこんだ」
 「すごく頑張ったけど全てがバラバラになってしまった」
 「でもそれらの重要だったことが
 いずれただの「あの時」の記憶になるんだ」

辛い思い出すら、それも含めていずれは「そんなこともあったっけ」というどうでも良い記憶になってしまう。

一見すれば虚無主義的な詞にも見えますが、見方を変えれば、日本で有名な言葉「10年経てば笑い話」という至言に通じる前向きさを感じる事ができます。

チェスターがそういうポジティブなニュアンスで書いたつもりなのかは解りませんが、この曲を聴いて
「自分も未来で達観できる事を信じて、ほんの少しだけまた頑張ってみよう」
と思えるリスナーも多いのではないでしょうか。

「逆もまた真なり」というように、暗さを歌う事で、少しだけ次の明るさの後押しをしてくれる、良い意味でひねくれた曲です。

そこもまたDir en greyっぽいですよね。


恨みつらみ、それとささやかな希望が込められたロックを聴いてみてください。



それでは。






AKINO from bless4『海色』

今日はAKINO from bless4『海色』を聴いた感想を。


この曲は、日本の音楽グループbless4のメンバーAKINOが2015年にリリースしたポップロックです。

上坂すみれ日高里菜洲崎綾が声優として出演している事でも知られる 「艦隊これくしょんー艦これー」のOPテーマとしても有名。

ちなみにタイトルの読みは「みいろ」。


ポップさとロマネスクの抑揚が美しい曲。

作曲が「My LIVE」(沼倉愛美)や「Born to be」(ナノ)で知られるWEST GROUNDの為、非常にドラマティックな内容です。

タイトルに『海』と入っているように、まるで海原の大波のようなテンションの昇降で、リスナーの心を激しく揺さぶっていきます。


曲展開もさることながら、バックの演奏も鋭い。

ベースのさりげないスラップ奏法がトリッキーで、押しの強い曲調に変則的な彩りを付与。

激しい曲なのに随所にこういう小技を織り込んでいる為、エキサイティングなのに乱暴な感じがしません。

昔から、豪快なようで細かいところまで神経が行き届いている人の事を「胆大心小」などと言いますが、本作はまさにそんな言葉がピッタリのクオリティです。


そしてやはり素晴らしいのはAKINO(Vo)自身の歌唱。

ただでさえ圧力が強いバックの演奏を、更に押し退けるようなパワフルな声で歌い上げられています。

高音部でも全然ぶれない。

最近の日本のボーカルに多い、「中音域までベルカントでも高音域ではファルセット」の流れをガン無視するような厚みのある歌声です。

メジャー歌手だとMISIAやSuperflyもそうですが、「地声の声色で高低をつける」事はテクニカル系のボーカルの一般原則。

いわゆる「正統派」の歌唱の魅力が楽しめる楽曲でもあります。

昔、自分の歌に対してストイック過ぎて、bless4メンバーのKANASAから「ロボットみたいに頑なだった」と称され、逆に心配したメンバーから

「シビアに生きることは大事だけど、毎日を楽しんだほうがパフォーマンスにポジティブな影響を与えるよ」

と助言されるほど練習しまくっていた彼女。
(その助言を貰ったにも関わらず、練習し続けたそうですが。笑)

その日頃の厳しい訓練の成果が、存分に発揮された歌声ではないでしょうか。

特にBメロからサビに移行するまでの

「憧れ 抜錨 未来 絶望 喪失 別離 幾つもの哀しみと海を越え」

「たとえ世界の全てが海色(みいろ)に溶けても きっと あなたの声がする 大丈夫 還ろうって」

の声がどんどんと強くなっていく様は、鳥肌もの。

切ないのですが重厚で、テクニカルなのに機械的ではなく、むしろ豊潤に感情が溢れている。

強く鮮やかな曲です。


駆け抜けるようなリズムに、直向きな感情が込められたメロディをのせた曲を聴いてみてください。



それでは。






ブラインド・ガーディアン『Lost in the Twilight Hall』

今日はBlind Guardian『Lost in the Twilight Hall』について。


アルバム「Tales from the Twilight World」収録。

この曲は、ドイツのHR/HMバンドBlind Guardianが1990年に発表したパワーメタルです。


優雅な硬派さが魅力な曲。

イントロでのスピーディなカッティングなど、テクニカルな要素もあるのですが、後期のブラインド・ガーディアンほど緻密でもなく、だからのこその若さ、直球ぶりを楽しめる曲風になっています。

比較的シンプルなプレイなのに、トーマス ・"トーメン"・ スタッシュ(Ds)の刻むビートが心地良い。

タルドラミングは、もちろん変拍子やパラディドルを織り込むかっこ良さもありますが、こういうパッション重視なパワープレイのドラミングは、メタルの元祖的渋さを放ちますよね。

ゴリ押しがメタルの全てではありませんが、やっぱりかっこ良いです。


そして本作の主菜、ボーカル。

ハンズィ・キアシュ(Vo)の安定感のある歌声もさることながら、本作ではなんとメタル界の大御所、カイ・ハンセンがゲストボーカルとして出演。

まぁゲストボーカルと言っても、あまり長時間歌っているわけではないので、実質コーラス状態なのですが、ハンズィの太く男性的な歌声に、あえてカイの魔女声(昔のアニメに出てくる、魔女が高笑いした時のような声)を組み合わせる所が面白い。

ハンズィの歌唱も力み気味の、ハスキーでやや歪みがかかった歌声なのですが、カイの声はその比じゃない程の金切り声。

お互いに無い所を補いあって、最強の盾と矛が揃ったような無敵感が演出されています。

有名ボーカルのコラボと言うと、そのコンセプト自体は珍しくは無いのですが、相性が良い組み合わせでやると、互いの魅力を倍々式に増加させます。

よく「科学と芸術の違いは?」の問いの答えとして「科学は1+1は2だが、芸術は1+1が3倍にも4倍にもなる」という返しがありますが、本作のデュエットはその典型。

アーティスティックな「共鳴」ではないでしょうか。

その後のカイのコーラスからドラムとギターが怒濤に捲し立てたりと、その流れもgood。

デュエットからの余韻が冷めない内に、追加でリスナーに胸に熱を与えるように工夫された展開になっています。

サプライズ感、楽曲構造、そして山火事のような火力。

隙が無い曲です。


カイ・ハンセンの存在感と、メンバー自身のパンチ力を楽しんでください。



それでは。






ウィズ・カリファ『See You Again』

今日はWiz Khalifa『See You Again』について。


この曲は、アメリカのラッパーWiz Khalifaが2015年にリリースしたポップバラードです。


ヴィン・ディーゼルポール・ウォーカージョーダナ・ブリュースターミシェル・ロドリゲスが出演している事でも知られる映画「ワイルド・スピード SKY MISSION」の主題歌としても有名。


客演のチャーリー・プース(Vo)の歌声が映える曲。

メーガン・トレーナーとの共演で話題になった「マービン・ゲイ」でもお馴染みの歌手ですが、非常に濃密に感情が込められた繊細なクリスタルボイスで歌い上げられています。

透明感の中に少しだけ憂いが混ざった発声は 、一時期日本で流行った「K」などの韓流歌手に近いイメージ。

そしてその素朴な歌声と好対称を成しているのがウィズ・カリファのラップ。

ソロの時は大麻を歌詞のテーマにした作品が多い為、母国のアメリカでも賛否あるアーティストですが、やはりラップ自体のかっこ良さは本物。

男らしいのですが、男くさくは無いストレートさ。

チャーリーの声が女性的というか中性的な為、きれいな好対称を成していると思います。


そして重大なのは、そのチャーリーの書いた歌詞。

「おまえが居なくて長い1日だった 友よ」
「また逢った時に色々、全部話そう」

「おまえと知りあってから 遠いところまで来たんだ」
「また逢った時に色々、全部話そう」

「また逢った時に」

有名な話ではありますが、本作のタイアップ先の映画「ワイルド・スピード SKY MISSION」の撮影が終わらない内に、主人公のブライアン・オコナー役である「ポール・ウォーカー」が亡くなってしまう、という不幸がありました。

寄付活動にも熱心だったポールは、チャリティーイベントの帰りに、友人が運転する車に同乗して、その車の交通事故で命を落としてしまったそうです。

そして、それと時期を同じくして、ボーカルのチャーリーも同じような事故で友人を1人亡くしていたんですよね。

「僕も友人を亡くした時凄くショックだった。ポールの事故の話を聴いた時も胸が傷んだ。ポールと自分の友人の事を想いながらピアノでコードを弾いたら、自然に歌詞が出てきたんだ」。

自分の友人とポールの境遇を重ねて、他人事とは思えなかったよう。

そのためかは解りませんがポールの歌声には、悲しみの中にも、何かに祈るような、あるいは願うような芯の温かい想いが込められているように感じます。

自分自身の悲しみと、相手への慈しみ。その両方が込められているというか。

日本の新元号である“令和”の引用元となった歌である「梅花の歌」が収録されている事でも話題になった古典文学「万葉集」。

その中に、人の死を悼む歌として「晩歌」というジャンルがありますが、本作もそれと同じような、亡き人に対する愛情に溢れたもの。

現代音楽の主流であるラブソングや、社会派ポップスとは系統が違う尊さがある曲ではないでしょうか。


アメリカの晩歌を聴いてみてください。




それでは。






BOOWY『Marionette -マリオネット-』

今日はBOOWY『Marionette -マリオネット-』を聴いた感想を。


この曲は、日本のロックバンドBOOWYが1987年にリリースしたロックチューンです。

作詞者 氷室京介

作曲者 布袋寅泰

BOOWYならではの迫力が満載の曲。


ミドルテンポなのですが、そのぶん布袋寅泰(Gt)の奏でる、まるで跳び跳ねる少年のようにアクティブなリフが強調され、聴き手にワクワクと高揚感を沸き上がらせてくれます。

リフもそうなのですが、布袋のコーラスもまた良い。

「ここで欲しい」というベストのタイミングで叫んでくれるので、熱いんですけどクドくはない、ロックとして理想的なコーラスワーク。

やっぱりコーラスを使いこなせるロックバンドってかっこいいんですよね。


そして、それと同じぐらい味があるのが歌詞。

「汚れちまって優しさもなくした」 

「疑う事をいつからやめたのさ」
「 そろえた爪(ネイル)じゃ OH! NO NO! とても狙えないぜ」

 「鏡の中のマリオネット あやつる糸を断ち切って」
  「鏡の中のマリオネット 自分の為に踊りな」

ここでの“マリオネット(人形)”の意味は「社会で他人に流されるままの人」の比喩。

社会において多くの人は、自分の意思など貫かず、上司の言う事や組織の慣習に流されるままに生活しています。

それも無難、という意味では良い事なんですけれど、それでも内心では「この仕事は、本当はもっとこうしたやり方した方が良いんじゃないかな」、「この作業は、まだ改善の余地があるな」と、うっすら不満を隠している人も少なくない。

そうした人達に、この先もそのままで良いのか、おまえの地力はそんなものじゃないはずだ、とリスナーの内に秘めた熱に薪をくべるような歌詞。

氷室京介本人は、下積み時代にゲームセンターのアルバイト中、出勤3日目にはそのゲームセンターのゲームで1日中遊んでいたほどの自由人。

当時お金もあまり無く、クビにされたら稼ぎも無いのに、それに怯えずほとんど他人からの非難を気にしない人なんですよね。

それはもちろん他の人は真似しちゃいけない極端な例ですが、そんな無茶をしてもなんだかんだで社会で生き残れる事ができた人が書いた歌詞。

読み手に「自分ももう少しだけ自分を出しても良いのかも」と思わせてくれる厚みを感じさせてくれます。

「人間はもっと自由で良い。意外と生きられるよ。」

そんなメッセージが読み取れる作品ではないでしょうか。


30年以上も前の曲。

にも関わらず、現代人の胸にも、むしろ現代人な胸にこそ突き刺さる普遍性を持つ曲を聴いてみてください。



それでは。