アヴェンジド・セブンフォールド『Beast and the Harlot』
今日はAvenged Sevenfold『Beast and the Harlot』 について。
アルバム「City of Evil」収録。
この曲は、アメリカのHR/HMバンドAvenged Sevenfoldが2005年に発表したメタルコアです。
Avenged Sevenfold名物の「多ジャンル詰め込み」を堪能できる曲。
序盤はザから・レヴ(Ds)の、工場の作業音のようなツーバスや、「ギャルルルッ」としたリフなどを主体としたスラッシュメタル系のリズムで聴き手をぐんぐん煽っていきます。
なのですが、そこにのるM.シャドウズ(Vo)の歌声は少し毛色の違う、前のめりなアメリカンハードロックタイプ。
バック演奏が殺気だった圧力を放っているのに対し、まるでステップを踏むような陽気さ。
一種の「緩和材」のようです。
この時点でAvenged Sevenfoldっぽさの片鱗を覗かせていますよね。
そしてここからが名物。
M.シャドウズの歌う、完全に歌で聴かせる曲調に様変わり。
激しいA~Bメロから一転、サビでは途端に美しくなる、という展開自体は元ドリーム・シアターのマイク・ポートノイが参加した事でも話題になった「Nightmare」にも通じるところがあります。
ただ違いは、「Nightmare」のメロディは叙情的で哀愁があるのに対し、本作のソレは雨上がりの陽光のような優しさのような空気があるところ。
メタルコアの上に、タイトルの和訳が「獣と売春婦」という作品のメロディに「優しさ」という表現も変ですが、なんというかその言葉が似合うメロディなんですよね。笑
M.シャドウズ(Vo)の、まるで祈るような発声の歌声が、メロディの情感を思い切り高めてくれています。
元々彼ら自体インタビューで、「影響を受けたバンドは?」の質問にアイアン・メイデン、メタリカ、ガンズ・アンド・ローゼズなど多様なバンド名を上げる、多趣味なメンバーで構成されているバンド。
言われて見るとスラッシーな所はメタリカ、ロックンロールな歌メロはガンズ・アンド・ローゼズ、そして激しいAメロから叙情的なサビという流れはアイアン・メイデンの要素を感じさせます。
一般に作曲家の「個性」というものは、普段プライベートで聴いている複数の他アーティストの作った曲の、好きな要素だけを部分的に切り取って、それらを繋ぎ合わせて1つの曲を作る、というその「自分なりの組み合わせ方」から生まれるもの、というのが通説。
ですがここまで「これでもか」というほど組み合わせた感が前面に出てる作品も珍しいと思います。
Avenged Sevenfold自身の少年のような「あれも、これも」という好奇心が生み出した名曲ではないでしょうか。
素材の豊富さと、その中にあるホスピタリィな歌メロの共演を楽しんでください。
それでは。
アヴリル・ラヴィーン『Complicated』
今日はAvril Lavigne『Complicated』について。
この曲は、カナダ出身のシンガー・ソングライター
Avril Lavigneが2002年にリリースしたパワー・ポップです。
2002年の「最も売れたカナダの曲」に選ばれ、Contemporary Hit Radioのチャートで11週にわたり1位を独占した事でも話題になりました。
苛烈ながら優しい歌詞が印象的な曲。
アヴリル・ラヴィーンの記念すべきメジャーデビューシングル曲で、その驚異的な売り上げから彼女の知名度を爆発的に広めた作品ですが、そのリアルな歌詞でも話題になりました。
「あなたがまるで 他の誰かみたいに振る舞ってるのはイライラする」
「 人生なんてこんなものだよ 転んで、はいまわって、傷ついて、
得たものを手に取って そして飾らなくなっていくの」
「約束したでしょ もうごまかさないって」
自分と過ごす時間以外は、人目を気にして、それに合わせた振る舞いばかりする彼氏を叱りつけるような歌詞。
元々アヴリルが、昔付き合っていた恋人に向けて書かれた詞だそうですが、アヴリルだけじゃなく、まるで世間一般の女性の思っている事を代弁したような内容ですよね。
たとえば嫉妬の感情にしても、「女は自分より外見が美しい女を妬み、男は自分より出世が早い男を妬む」などと言われるように、男性は大抵「世間体」を自分の人生の重要な部分に置きがち。
男性にそういう部分があるのは、一説には人類がまだ猿の時代から、オスは群れのなかでの自分の序列を気にして戦う習性があったので、その時の名残、という仮説はありますが、とにかく見栄を張りたくなりやすい生き物なのかもしれません。笑
ただそれは男にとっては重大でも、女から見れば些細なモノ。
きっと女性側からしたら、自分の彼氏には人目を怖れて違う人間を演じ続けられるよりは、おそらく自然体で堂々としていてほしいんですよね。
愛した人が、世間を気にして変に自分を飾るよりは、そのままで自分らしくいてほしい。
ひたすら相手の好きなところを囁くラブソングとは少し違う、相手に不満を漏らしながらも同時に期待も寄せている。
アヴリル式の、ラブソング的メッセージソング、という感じでしょうか。
アメとムチが絶妙に効いた歌詞だと思います。
楽曲的にも秀逸。
イントロ~Aメロは少し物憂げなメロディ。
素の自分に自信が無い恋人への、空しさを表しているかのようです。
しかしBメロからはわずかに力強く。
そしてサビでは、まるではっちゃけるように演奏とアヴリルの声にパワーがこもります。
恋人に「これからは少しだけ自分に自信を持って」と背中を叩くような音圧。
アヴリル自身の歌声にも、なにか切実感というか懸命になにかを訴えかけよう、という痛切さがあり、それだけ強く相手の事を想っているのだという事が伝わってきます。
強いようで脆い、と見せかけてやはりとても強い。
セリーヌ・ディオンやマライア・キャリーのような歌姫とはタイプが違う、ロック歌姫なアヴリルに相応しい作品ではないでしょうか。
憂いと激励のコントラストが効いた曲を聴いてみてください。
それでは。
ALTIMA『I'll believe』
今日はALTIMA『I'll believe』を聴いた感想を。
この曲は、日本の音楽ユニットALTIMAが2011年にリリースしたロックチューンです。
釘宮理恵、江原正士、日野聡が声優として出演している事でも知られているアニメ「灼眼のシャナIII-FINAL-」のEDテーマだった事でも有名。
非常に前のめりな曲。
キャッチーなのですが「m.o.v.e」のmotsuのラップパートの導入など、かなり攻撃的な仕様になっています。
出だしこそしっとりとしていますが、そこから急転。
クラブ系の、いわゆるトランスミュージックのような曲風に。
元々作曲者の八木沼悟志が「洋楽風のノリに仕上げたかった」というテーマで作っただけあって、まるでユーロビートにも通じるグイグイ感で聴き手に迫り、際限の無い高揚感を与えてくれます。
巧みなのは前述のラップパートのタイミング。
歌メロ自体に導入すると言うよりは、歌と歌の合間に組み込まれていて、あくまで歌メロを彩る「良き繋ぎ」という印象。
超ハイテンションなのに、やっている事はあくまで縁の下の力持ち、という所が職人的でかっこいいです。
そして何より、個人的に1番好きなのは、急に静かになる「人間(ひと)は誰も忘れていく 痛めた傷跡も」のパート。
さっきまでは、膨大な音数だったバック演奏が、急に最小限のリズム音だけになり、黒崎真音(Vo)の歌声が一気に際立つ場面になっています。
気持ち若干キーも下がり、歌詞の達観感がより強く強調される所が情感深いです。
一見エネルギー量で押しきるように見せて、かと思えば引きのパートでリスナーを心地よく惑わす。
リズム自体もかなり変則的ですが、そこから伝わる感情の質も1つではない、激情も緊迫感も悲しみ、色とりどりな思いが詰め込まれた歌だと思います。
電子音主体の曲ですが決して機械的ではなく、それこそ「灼熱」のような熱を聴き手に与えてくれる楽曲です。
ノリのよさと儚いメロディを同時に楽しんでみてください。
それでは。
バックチェリー『Frontside』
今日はBuckcherry『Frontside』について。
アルバム「Time Bomb」収録。
この曲は、アメリカのロックバンドBuckcherryが2001年に発表したハードロックです。
超がつくほどノリ重視の曲。
基盤はロックンロールだと思いますが、鋭い疾走感、そしてパンクのノリが多く含まれたリズムが、聴き手を即トランス状態に至らしめます。
ロックでパンキッシュでメタリック、というユニークなパワフルさを楽しめる構造です。
さりげにイントロのドラムがかっこいいところがポイント。
デヴォン・グレン(Ds)のドラミングがいかにBuckcherryにおいて重要な位置を占めていたか、という事を再認識させてくれるプレイだと思います。
そして極めつけはジョシュ・トッド(Vo)の歌声。
歌メロ自体は全体的に大きな変化があるパートはなくシンプルなのですが、声にみずみずしさがあり、シャウトがかった発声と反比例するような色気があります。
メロディラインがストレートなぶん、聴き手の意識が自然にジョシュの声質に向きやすくなり、その声の深みが味わえるような構造。
意図的にそう作ったのかナチュラルにそうなったのかは解りませんが、演奏陣の勢いだけじゃなく、ボーカルのポテンシャルも楽しめる楽曲ではないでしょうか。
荒っぽさの中にある、独特な大人っぽさ。
一見「少年的」な要素がある曲ですが、その少年らしさもあくまでこの大人らしさを引き立てる為にある、という趣旨の作品なのかもしれませんね。
ラフなところとシメるところの対比が魅力的な曲を聴いてみてください。
それでは。
T-BOLAN『Bye For Now』
今日はT-BOLAN『Bye For Now』について。
この曲は日本のロックバンドT-BOLANが1992年にリリースしたポップバラードです。
裕木奈江、内藤剛志、芳本美代子が出演している事でも知られるドラマ「ウーマンドリーム」の主題歌だった事でも有名。
記念すべきT-BOLAN初の、シングルでは唯一のミリオン達成曲。
作詞・作曲者ともに森友嵐士(Vo)。
前向きな寂しさが描かれた曲。
「素敵な別れさ 出会いの未来があるから」
「夢かなう日まで 今はここでそう Bye For Now」
元々は、森友嵐士が自身の仕事を支えてくれていたあるスタッフに、個人的に送る為に作られた作品との事です。
そのスタッフはライブの打ち上げの席で森友嵐士に
「叶えたい夢の為に、この仕事を辞めて海外に行きたいんです。」
と相談したそう。
その告白に感じるものがあった森友嵐士は、そのスタッフへの応援の気持ちをこめた作品を作りたい、と書き上げられたのが、この力強い歌詞。
一般的に「別れ」というフレーズが入る歌は悲しい作品である事が多い印象。
その「別れ」を、あえて前を向く為のスタート、新たな人生の始まりの動機として扱っている所が良い。
通常マイナスに使われる事が多い言葉を、熱く優しい激励のメッセージに使う所が、男の中の男ボーカル「森友嵐士」的ですよね。
バラードを歌っていてもこの人の根底は「ロック」なんだな、という事を体現している曲だと思います。
楽曲的にも、入りはアグレッシブに動き回るシンセサイザーの音から急速に一転、静寂の演奏に様変わりする、というウィットに富んだモノ。
その流れ自体が新たな挑戦に必要な、激しい情熱と静かな決意の両方を表現したようで美しい。
歌詞、楽曲展開、そして森友嵐士自身のハスキーながら色気のある歌声。
その全てが、ジャストフィットした内容の作品です。
切ない明るさが詰め込まれた曲を聴いてみてください。
それでは。
ドリーム・シアター『Surrounded』
今日はDream Theater『Surrounded』について。
アルバム「Images & Words」収録。
この曲は、アメリカのプログレッシブメタルバンドDream Theaterが1992年に発表したロックバラードです。
素朴なのに神秘性に溢れた曲。
ポップなのですが平凡では無く、変化的なのですがクドくはない、類稀な調和を保つ作品です。
まず夜が開けるような、ふんわりとしたイントロが始めります。
聴いているとまるで海の向こう、水平線から朝陽が顔を覗かせるイメージが頭に浮かびます。
ジェイムズ・ラブリエ(Vo)の歌声も、超艶やかなウィスパーボイス。
そしてそこから、一気にキャッチーなポップ展開に。
若干ラップ調なところが、彼らの作品としては珍しい。
軽快であっても、どことなく高級感があるのが不思議です。
そしてそこからが本作のメインパート。
ラブリエの突き抜けるようなハイトーンボーカルによる、麗らか過ぎる歌メロ。
Aメロまではどちらかと言うとリズムを重視した流れだったのに対し、ここはメロディ重視に様変わりした印象です。
元々本作が収録されているアルバム「Images & Words」自体、Dream Theaterのアルバムの中でもメロディに重きを置いた作品。
その中でもこの曲は、彼らの代表作「Another Day 」に匹敵するメロディアスさだと個人的に思います。
ちなみに終わり方も粋で、再びイントロと同じしっとりした展開に戻っていきます。
普通こういう、いわゆる「後半に進むにつれてキーが高くなるバラード」は、盛り上がったらその余韻を残したまま終わりを迎えるのが通例ですが、本作はあえてまた静寂に戻る。
Dream Theaterの作品の中では比較的、一般のポップス寄りの曲ですが、それにさえ「ひねり」を加えるところが彼ららしい。
「Dream Theaterっぽくないようで、やはりDream Theaterっぽい」という感覚を楽しめる楽曲ではないでしょうか。
日の昇降のような起伏と壮大さを感じられる曲を聴いてみてください。
それでは。
ヨーロッパ『Carrie』
今日はEurope『Carrie』について。
アルバム「The Final Countdown」収録。
この曲は、スウェーデンのハードロックバンドEuropeが1986年に発表したロックバラードです。
明光のように希望に溢れたメロディのバラード。
まるで霧が晴れるように、明るくも胸に染み込んでいく旋律が、リスナーの心を穏やかに包んでいきます。
特に好きなのはミック・ミカエリ (Key)のキーボード。
雪のように透明感のある音色は、北欧の雪原の風景そのものを映し出しているかのよう。
それていて若干L.A.ロックを連想させる明るい温かさもあり、それがアメリカ人にもウケたのか、全米チャートで3位を獲得した事もあります。
当時アメリカで、本作のタイトルの名前を子供につける親も多かったとか。
しっとり感もあり、じんわりとした優しさもある、幅広いリスナーにフィットする音色です。
また際立つのは、ジョーイ・テンペスト (Vo)の声。
ハスキーなのですが独特の甘さもあり、この手のロックバラードと相性抜群の歌声です。
叫ぶパートでもうるささが無く、むしろ一種の脆さというか儚さを感じさせます。
時折覗く、嘆くように歌い上げるパートは感涙もの。
というか前作までと比べて、そもそも歌唱力自体も向上しているように聴こえます。
ボイストレーニングメニューを変えたのか、積み重ねた人生経験が歌に活きたのかは解りませんが、それまでとは一味違うジョーイの声が堪能出来る作品でもあると思います。
ちなみに、これほど美しい作品なのにジョン・ノーラム(Gt)はこの曲があまり好きでは無いとの事。笑
「この曲は眠くなる」とまで語り、先のEurope再結成ライブですら「絶対やらない!」と演奏に参加しないほどの徹底した嫌いぶり。笑
まぁ、この後EuropeがHR/HMからポップス路線に舵をきっていった事を疑問に思い、一度はバンドを脱退してしまったほど「HR/HMミュージシャンである事」にプライドを持っている彼ですから、ある意味致し方ないのかもしれません。
しかし噂によれば「ギターソロ部分は誇りに思っている」と語った事もあるなと、この曲を全てを拒絶しているわけではない模様。
ライブでは現在は、ジョーイが1人でアコースティックで演奏していますが、いつかは彼が生でプレイする『Carrie』も聴いてみたいですね。笑
ポップなメロディと透き通るサウンド、歌メロに重きを置いた構成。
HR/HMバンドのバラードに取っ付きにくいイメージを持っている人にこそ聴いてほしい曲です。
それでは。